ウシュアイア

わたしを離さないでのウシュアイアのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2016年製作のドラマ)
4.0
ガズオイシグロの同名小説の翻案ドラマ。
テーマは一貫しており、SF作品なのでそれほど違和感はない。

すべてを一人称で回想する形で話が進んで行く原作では、記憶の歪められ方や受け止め方の変化に面白さがあったので、様々な登場人物のあらゆる視点から描かれると,つまらなくなってしまうのではないかと思ったが,ドラマは,激しい憎悪を抱きながら親友と再会した時点で,過去を回想していくところから始まり,現実に舞台が移っても、ところどころに回想を交え,特に美和(原作ではルース)を演じる水川あさみさんの暴れっぷりによって観るものの感情がかきまわされ,時間経過とともにあるモメントに対する感情の変化をあぶり出していく展開となっており、名作ドラマといっていいように思えた。

親友と和解した後,恋人も親友も喪ってからの時点での回想として描かれた原作を読むと,ドラマにはない部分も分かるので,ドラマを観たのであれば,原作を読んでみることをおすすめする。

原作の書評やらドラマのレビューでは,クローン人間の問題がテーマと言っているが,Eテレの白熱教室で著者本人が語っていたように,「何らかの理由で、若者達が老人のように命に限りがある設定の物語」を書くにあたって、クローン人間という設定はいろいろと舞台設定を調製した結果の設定に過ぎず,絶望的な状況で人はどう生きるか?という普遍的なテーマはドラマでも追求されていたように思える。

また,ドラマでは,主人公たちが教育を受けた学校の校長エミリ先生(恵美子先生)の人物や主張(主人公たちをきちんと教育する理由)が掘り下げられており,教育によって豊かな人間性と心を育てることで,絶望的な運命でも,人間らしく生きることができる、というメッセージにも気付いた。

でも、ドラマでやるには重たい作品のような気がします。

(追記)
最近『約束のネバーランド』という漫画がヒットし、設定が似ていると話題になっていた。『わたしを離さないで』は過酷な運命を受け入れる物語で、『約ネバ』は運命に抗う物語。原作では登場しなかったが、ドラマ版ではオリジナルにはないキャラクターとして、臓器提供用クローン人間の権利活動に参加する真実が登場し、限りある命で運命に立ち向かう、という選択肢も主人公の恭子に提示されている。そうした選択肢があえて放棄させるということも興味深い。さらに『わたしを離さないで』を知ってると『約ネバ』の初期のイザベラの行動が一つの正解であり、よく理解できる。

ついでに、三浦春馬が最期の方で叫ぶシーンがあるが、今にして思えば、映画版のアンドリューガーフィールドの演技にそっくりだったと思う。
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