塔の上のカバンツェル

バビロン・ベルリン シーズン3の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

4.3
ワイマール共和国という何でもありの時代の各勢力の栄枯盛衰の様が興味深い本シリーズ。
第一期は共産主義者、第二期はゼーガース率いる国防軍、第三期は遂にナチの影と、物語がどんどん地獄に向かって転がっていく。

このワイマル共和国という舞台装置に登場するキャラたちの行く末が察せられるのが第三期。

左派寄りのユダヤ人記者や獄中の共産主義者、同性愛者、自立した職業人としての女性たち...
いづれもナチス政権下では権利を制限されるか、あるいは絶滅収容所送りになる人々。
思えば、ギャングであるカサビアンらが作っている映画は前衛芸術に片足を突っ込んだ作品に仕上がっているし、それを批評する新聞記者ら同性愛カップルは言わずもがな。
前衛芸術も同性愛者もストレートな無法者も後に訪れる制度化された圧倒的暴力体制で弾圧どころか絶滅に追い込まれるのである。
本作で描かれるナチの末端であるSAもまた、長いナイフの夜事件で粛清される立場という。
それはゼークトモチーフのゼーガースら伝統的プロイセン軍人らもまた同様。

周囲のキャラ達がマイノリティか、弾圧されることが運命づけられている人々なのに対して、主人公ラートは多数派のカトリック世俗ドイツ人なんですよね。
刑事という体制側の人間であり、善良そうでもあるが、いつの間にかとんでも無いところに行き着く大衆を象徴する人物。
このシリーズがどこまで描き切るのか、そしてラートが「我が闘争」を手に取るなどの不穏なフラグの数々。
シーズン3までの左も右も帝制派も無政府主義者も何でもありに乱れまくってるワイマール共和国に訪れた終わりの始まり、いよいよナチス体制が訪れるシーズン4を早くも予感させていてゾクゾクする。

その他シーズン3では、この時代の国家内の国家としての軍隊内の権力者ゼーガースは史実のゼークトがモチーフだったり、エーベルトが登場するなど、ワイマル共和国に馴染み深い人物多数で嬉しい当たり。

相変わらず、シャルロッテ嬢が酷い目に逢いっぱなしでこの人に幸せは訪れるのか。

また、3シーズン目にして、陰謀と同じくらいに刑事サスペンスとして物語が展開されたようにも思える。
犯人がサイコパスじみていたのは、刑事モノしぐさ。

冒頭と終わりで締めくくられる世界恐慌で、いよいよ地獄の窯の蓋が開けられた。

【参考文献】

「ワイマル共和国」中公新書出版
「ドイツ軍攻防史―マルヌ会戦から第三帝国の崩壊まで」 作品社