塔の上のカバンツェル

戦火の海原の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

戦火の海原(2023年製作のドラマ)
3.6
ノルウェーの戦争ドラマ。
レンドリース法におけるソ連支援のための北海ルートの輸送船団に従事するノルウェー人船乗りたちを描いた作品だと珍しさがある。

派手なアクションはないものの、
連合軍の輸送作戦に従事したノルウェー船籍の半数の商船が撃沈(1945年時点でノルウェー商船680隻が沈没)したという事実を背景に、何もない水だけの砂漠、絶海の大海原に投げ出さられる絶望感がヒリつく。

全体的に長尺に感じるのも否めないのはそうで、静的な語り口の本作。
ただ、シネマトグラフィの品質は一定以上なので、近年の「ヒトラーに屈しなかった国王」やNetflix製作の「ナルヴィク」などを経たノルウェー映画界のクオリティは体感できるとも。

輸送船団や爆撃機のCGによるVFXとセットも割と見応えはあるところも多いのが嬉しいし、一方的に駆られる立場の輸送船から見る海の下を徘徊するUボートの恐怖を感じられるのも貴重。
最近のWW2でUボート乗りの衛生兵とか珍しい。

第1話のバレリーナの男の子の踊りを押し黙って眺める水夫達のシーンや、第2話のルフトヴァッファからの船上での空襲と、本国の地上での連合軍による空襲が交差するシークエンスは、WW2で板挟みにあったノルウェーという立場を記号的に見せていたりと。

停船すれば魚雷に狩られるため、遭難者を見殺しに船が走り去っていく場面は、硫黄島の戦いを描いた「父親たちの星条旗」の嫌なシーンがフラッシュバックした。

船の発動機の耳障りな音が緊張感を高めつつ、絶海の遭難者や空襲に抗えない市民の絶望がピンと張り詰めた作品になっていると思う。

戦後の船乗りの境遇という点からも、立場は違えど日本も日本郵船の乗組員の犠牲と戦後の扱い(戦死扱いにはならなかった)など、思うところもあり。

派手さはないが堅実な戦争ドラマだった。