塔の上のカバンツェル

鎌倉殿の13人の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

鎌倉殿の13人(2022年製作のドラマ)
4.0
久々にリアタイした大河になりました。
素直に面白かったです。

出身が三浦半島湘南の某市なので、学生時代によく行ったファミマとか、たむろしたマックとか馴染みの場所で推しが惨殺され、血みどろの合戦が行われていたというご当地感。

個人の観測範囲ではあるけども、かなり盛り上がった大河にもなったんじゃないかと。潜在的に大河を視聴する可能性のある層を取り込めたようだし、Twitterやファンコミュニティが盛り上がったことも幾分追い風になってリアタイ文化が戻った感は少なからずあったんではと。

じゃあ何故ここまで盛り上がったかというと、お話運びが上手かったにつきる。

歴史モノというのは、史実は皆知っているわけで、起きた事象に対してどう観客を驚かせるか、どうツイストを加えて解釈するかが、一つ上手い作品のラインとなるわけで。
ある種の答え合わせに近い中で、脚色がより意表をつくものであれば、してやられた!指数が高くなり、次もまたビックリさせてくれるんじゃないかと興味と期待が持続する、この好循環を本大河は特に上手くいったんだろうなと。

加えて、作品全体と各話の脚本構成レベルで、ホームドラマと陰惨な密室サスペンスが同居する作りになっているので、正に"上げて落とされる"感覚…
視聴者のエモーショナルな部分にストレートに訴えかけてくる部分が大きかった。

このSNS全盛期において、ショッキングな感情をシェアしたい、考察で盛り上がりたいという観客心理を絶妙にくすぐってきたことで勝手に皆んながリアタイしなきゃというムーブにさせたわけで…
ここまでに観客を引き連れていった、三谷幸喜や脚本をほめるべきでしょう。


【生き残る奴、全員悪人】

鎌倉アウトレイジ。

"良い人になった瞬間、死ぬ"の連続ではあるものの、ワンパターンが様式美までに昇華できると強いなぁ。

方々で触れられている「ゴットファーザー」の引用は、特に最終回の顛末でも感じられることと思うけど、個人的に最も衝撃的だったのは上総介の顛末。
最終回と相関関係にある、物語の方向性が一気に暗転していったわけだし、観た直後かなりショックで数日引きずりもした。
日本国内の実写作品でここまでメンタルがビックリしたのは、割と初めての感覚かもしれない。

畠山、実朝、蒲殿、義経などの死や、藤原光澄などの理不尽な死など死が積み重なる作品の中で、特に上総介の死は心に残る。

最終回の義村が最後キノコでマウントすることで、幼馴染でのライバル心で若干勝ちをつけるあたりとか、1年やってきたフラグの積み重ねも大河ですねぇ。

義時のムーブはアニメ作品にはなっちゃいますけど、コードギアス世代にはブッ刺さるなーと泣きながら思った。


【キャスティングについて】

小栗の義時、小池の政子は勿論のこと、大泉の頼朝、メフィラス三浦、セクシー八田などのアイコン的なキャラクターたちと、個人的に今まで視界に入らなかった役者人、ティモンディの仁田殿、比企の佐藤二郎、上総介の佐藤浩一など、上げていけばキリがないくらい、キャラクターの造形と役者のアイコニックな演技が素晴らしかったなぁと。

特に梶尾演じる善児。
オリキャラながら、死の象徴としての脚本上の暴力装置。観客が回を追うごとにその理不尽さを受け入れていくプロセスは、中々面白かった。
多分脚本家は直接引用はしていないだろうけど、「シカリオ」のアレハンドロの暗殺者造形に少し影響されてるのかなと邪推。
トウを弟子にするあたりは、まんま「ディオブソルダード」のラストだし。



【この作品について】

残念なところがなかったわけでもなくて、最後は急ぎ足だったのが惜しいなぁと。
あと、歴史大河としてはやはりもうエキストラを使った合戦シーンのしょぼさはどうにもならないんだろうなぁ…。
日本に予算やノウハウが失われて久しく、他国のような合戦や殺陣は期待できないのが残念でならない。

HBOやBBCとまでは言わなくても、デンマークのDR1やドイツのDas Erste、韓国作品など、NHKと同じ立ち位置のTV会社で良質なアクションシーンを数多観られるのに何故日本は…ロケ地だろうなぁ、やっぱり。寂しいなぁ…

壇ノ浦の戦いは結構期待していたんだけどなぁ…。ただ、これは第二次ウクライナ戦争の開戦により、CGを発注していた現地会社が納品できなくなったことも不運が重なった結果なので、運が兎に角なかった。

合戦がショボいのは割と皆もう諦めてるので、その分脚本に関心が集中したのは今作において言えばポジティブな方向に転がっていたったとも。

合戦やアクションはアニメ「平家物語」が規模、クオリティ共に素晴らしいので、相互補完して重層的に楽しめた鎌倉一年であったのは幸いだったなぁと。

年間通しで観たのは久々の大河だし、日本のドラマ作品でここまで義務で見なかった作品も久しい。

一年間ありがとう鎌倉殿。


でも鎌倉市はこの大河で恩恵受けたのだろうか…。
趣ある歴史の街って印象から、禁酒法時代のマフィアが殺し合うシカゴみたいなイメージに印象最悪になってるけども…