こたつむり

"新参者"加賀恭一郎「眠りの森」のこたつむりのレビュー・感想・評価

3.5
『新参者』加賀恭一郎シリーズ4作目。
『赤い指』がエピソード0だとしたら、本作はマイナス1になるのでしょうか。映像化された作品で言えば、シリーズの中で最も古い物語になります。

だから、加賀恭一郎も警視庁捜査一課勤務。
これまでの作品とは違って、所轄の刑事が加賀恭一郎に気を遣う立場でした…って、彼はいつだって傍若無人だから、あまり関係ないんですけどね。

ちなみに今回のコンビ役は柄本明さん。
劇中で「オタクのことは分からんよ」なんてボヤかれますが、息子さん(佑さんか時生さんかは忘れましたが)曰く「親父は演技のことしか考えていない」とか。ブーメラン的なセリフが微笑ましい役柄です。

また、微笑ましい演出といえば。
仲間由紀恵さんが《山田さん》という役柄で友情出演していたのも頬が弛みました。彼女がいるだけで、加賀恭一郎ではなく上田次郎に見えてしまうのは不思議な話です。

そんな演出は物語にも良い影響を及ぼしています。ちなみに演出を担ったのは、前作『麒麟の翼』を仕上げた土井裕泰監督なんですけど、やはりドラマ畑の御方なのでしょうね。無理がない筆致なのです。

それは、本作のキモであるバレエの描写に顕著。男性陣は本職のダンサーだったようですが、音月桂さんの“しなやかな肢体”は愚息が嘆息するほどに見事な限り。まさに“プリマ”の風格。宝塚出身者は違いますね。

そして、何よりも石原さとみさんですよ。
ふわっとした柔らかい笑顔と、覚悟を決めた表情。相反する要素を見事なまでに具現化したうえで、それを生かす配置と演出は物語を一段上のレベルに導いていたと思います。

ただ、あえて難を言うならば。
事件を構成するキモである“各自の思い”の描写は中途半端。尺を考えたら仕方ないとは思いますが、想像で補うだけだと物足りないので…この辺りのバランスは難しいところですね。

まあ、そんなわけで。
『新参者』エピソード“マイナス1”ということで、シリーズに触れたことがなくても楽しめる作品。前作『麒麟の翼』よりも素材が軽いのも功を奏していますね。気軽なスタンスが吉です。
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