空

椿の花咲く頃の空のレビュー・感想・評価

椿の花咲く頃(2019年製作のドラマ)
3.9
素晴らしいドラマだった。

田舎街の閉塞的な価値観、見栄、劣等感、偏見、差別。
主人公のシングルマザーを通して韓国社会の生きにくさをリアルに描きつつも、心温まり静かに涙する。ラブコメ、サスペンス、母子愛、家族愛が絶妙なバランスで途切れることなく行き来する脚本と演出が秀逸。

韓国のゴールデングローブ賞と呼ばれる百想芸術大賞で、『愛の不時着』ヒョンビン、『梨泰院クラス』パク・ソジュンなど大物俳優が並び歴代最も大激戦と言われた2020年の最優秀男性演技賞を受賞したカン・ハヌル。皆がこのドラマで沼落ちする理由がわかった。
しかも今作が初主演だというから驚き。

方言が強く田舎臭くて猪突猛進なヨンシクに序盤は全く魅力を感じなかったけど、実は冷静に彼女を観察していて、その描写が入り始めた頃からハマっていった。
純粋ストレートだけど冷静に周りを観察し他人を気にしながら生きているているのは恐らく彼が三男坊として育ったからで、そういった細かなリアルな人間描写が随所で見られた。
実父はドンベクしか見てないのと対照的に彼女と子供を常に交互に見ている目線とか。韓国ドラマってこういう描き方がほんとに上手い。

ラブコメ、サスペンス、ヒューマンが次々と交錯する今作で、感情の切り替えが最も大変だったのがこのヨンシクを演じたカン・ハヌルだったと思う。

パク・セロイのようなセンスや個性もなく、殺人鬼に追われてるのにリ・ジョンヒョクのようにここぞという時に(一度だけあの場面を除いて)助けに来てはくれない(警察官なのに😅)
けれど自分自身を他人と比べることなく、ありのままの自分をかけがえのない存在として認めるという、人が強く生きる上で最も大切なことを教えてくれて、
最終話ヨンシクの心の声「동백씨는 동백씨가 지킨다ドンベクさんはドンベクさんが守る」このセリフに象徴された、こういったヒロイン×主人公の描き方は現代らしいと思った。

財閥は出てこないし海外ロケもない、ドラマチックな展開もないけどボディブローのようにじわじわと後から効いてくる。
ヨンシクばかり描いてしまったけどヒロインの女優さんはじめ脇役、子役まで全てのキャラクターが立っていて愛おしくなる。

実は自分も1年前に1話で離脱してたんだけど、今となっては最後まで見て本当に良かった。
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