なっこ

トレインのなっこのレビュー・感想・評価

トレイン(2020年製作のドラマ)
3.0
その昔『ifもしも』というドラマがあって、子ども心にその物語が深く心に刻まれてしまって、多分生き方にまで影響されているかもしれないとさえ思うときがある。その物語では、人生は道のようなもので、ある時二股の分かれ道にさしかかる。右か左かどちらかを選んで進んでいかなければならない。人生が枝別れする、その先を描いているといえば、このドラマも同じことを描いていると言えるのかもしれない。人生もそんな具合に動いていると感じる瞬間は多々ある。でも、多くの人は人生は選択の連続で選ばなかった方の人生の先を生きることはないけれど、もしも、違う方を選んでいたら、その先にいるのは今の自分とは全く違う自分がいるんじゃないか、なんて想像することはある。そんなもう一人の自分と、主人公は出会える幸運に恵まれた。

現在から12年前のある時点で、主人公の人生は二つの世界に分かれてしまった。信号待ちをしていた彼が、ある少女に出会うかそのままやり過ごして信号を渡るか。その僅かな時間のズレで、未来は大きく変わっていく。

映画『スライディングドア』も同じように電車に間に合ったか否かで二通りの物語が進行していく。人生の分かれ道と電車。このふたつがセットで出てくるのが不思議な共通点。

人生は旅にも列車にも道にも喩えられる。私は、人生はメロンの網目のように四方八方に拡がっていくイメージを持っている。こんなに主人公にとって都合の良いたった2つの世界ではなくて、道を選択する度に枝分かれしていき、何通りもの別の世界を生み出しながら進んでいくような。どちらにしてもこの物語は、些細なことで未来は変わっていくし、それも誰と出会うかで、互いに影響され合って未来を作っていく、運命の出会いと言っても幸運な出会いばかりではないことを描いている。悪魔に魅入られることもあると。

一つであったものが二つの世界に分かれた、これはこの国のもつ物語として繰り返し描かれていくモチーフなのかもしれない。主人公が愛する人がどんな姿になっていても生きていて欲しいと願うとき、私はなぜか今起こっている戦争を思い起こした。個人的なstoryと国の選択としてのstory。個人の集合体としての国の選択が、必ずしも個人のstoryが願う方向には向かわないことがある。そういう悲劇が繰り返し起こっている。

あのときああしていれば、という後悔も、あのときあなたに出逢っていなければ、という運命的な出逢いも、無数に枝分かれした先でしか起こり得ない。正解はないと言って欲しい。どちらを選んでいっても良いことも悪いことも起こるのだろうから。それなら行き着くところは同じなのか、というのが主人公の苦悩であり、物語からのメッセージのように感じた。

結果、行き着くところは同じかもしれない。私は運命のたどる線を網目のようなものとして認識してる。それは都市の地下鉄が主要な駅は必ず停車するように、どれを選んでも避けられない出来事は必ず起こる。通過すべき主なポイントを示された青写真を持たされて生まれてきているのではないかと。抗えないものにどう抗うか、私はいつもそれを運命に挑戦する、と捉えている。もしも神様がいるのなら、青写真を書き換えることの出来ない人間の姿の、どこを見ているだろうか。それでも抗おうとする人の姿だと思う。

物語の先がどこに行き着くのか、主人公は真犯人と対峙できるのか、ハラハラしながら見守るのは、決まった未来を書き換えて欲しい訳じゃない。未来に向かって走る彼と並走することで私も何かを得たいから。
彼ならきっと何かを教えてくれる、魅力的なヒーローだと思う。
なっこ

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