なっこ

夢華録のなっこのレビュー・感想・評価

夢華録(2022年製作のドラマ)
3.3
ロマンス史劇

確かに。男女の愛の物語が中心で、宮廷の骨肉の争いや女子の商い、自立や友情、成長の物語でもある。

そもそも、ヒロインの失恋から始まる物語には好感が持てる。ヒロインの親友が既婚者で人生経験豊富な女子であることも良い。

物語の始めの方で運命の相手となる顧千帆がヒロインに投げかける言葉が印象深い。

世の中には試練に耐えられない者もいる、と。もし、婚約者が君の思っていたような男ではなかったらどうする?そのときの君の選択に興味がある、というようなセリフだった。

実人生もそんなところがあるよね、試練にどう立ち向かうか、試されるようなことがやたら続くときもある。ヒロインは物語の前半からほんとに踏んだり蹴ったりで大変な状況が続く。泣いちゃうくらい辛い。だけど、ヒロインは泣き崩れても、そのまま悲劇に沈むことはない。カメラはしっかりと彼女が泣き止んでまた立ち上がるところまでを追う。塞ぎ込んでも最後には前を向く、明日に希望を持つ、自らの力で。そんな彼女を見つめているとすごく力をもらえた。支えとなってくれるヒーローはほんと不死身で女子が言って欲しいこと全部セリフにしてしまうような完璧な男で、こんな男、物語にしかいませんよ、なんて思うけど。そんな彼と見つめ合う姿が本当に幸せそうで、そんなつっこみはどうでもよくなる。うん、貴女が幸せなら何も言うまい。男女の愛を中心に描く物語に心惹かれたのは久しぶり。互いに誠実なはずなのにすれ違ってしまうなど、話の運び方も巧みだった。私が一番好きなヒロインの型、与えられた運命に挑戦するヒロイン像を見事に描き出している。

まわりの登場人物も魅力的。笑えるほど闇堕ちしていく元婚約者も、振り切ってて良い。顧千帆が言うように、彼は、試練に耐えられない方の人間だ。順風満帆であればきっと問題ない。だが、風向きが変わったときに、己のことしか考えられなくなる。相手のことはその次。悪い男の見本のような、ああ、琵琶娘を囲った男もそういう男だった。女子は避けて通るべき男の見本のような男たちだが、こればかりは実際に向き合ってみなければ、もしくはことが起きなければ分からない性質なのだ、それが厄介。

父と子のテーマは男性主人公パートに片寄りがち。今回はヒロインも武将の娘という一面もあるが、両親は既に他界しているためやはり親子の葛藤を担うのは彼の方。
親から子へと、受け継がれていくものには、愛だけではなくて、わだかまりも存在する。親子関係が複雑であればさらにその因縁から自由ではいられない。親の罪がそのまま子に継がれてしまうような、個人よりもその家の人間としての自分に、現代でも未だに縛られているのが現実だ。そういうものを全て跳ね除けて個としての自分、そして個としての相手を、しっかり見つめ、愛を注ぐべき相手だと見極めていく姿勢にヒロインとしての新しい強さを見る。

過去や家族、
そういう縦のつながりよりも、いまという時間、そして友人や商売中間という横の人間関係を、大事にする。
そういった意味では、高みにいる人間たちではなく、あくまでも市井を生きるひとりとして、低い視点から、それらを大事にして生きようとする姿を描いていて、その街を訪れれば、彼女たちとすれ違うのではないかというくらいに身近に感じられる物語だった。

宋代の物語はこれが初めて。
船でのシーンが多くて、これは中国ドラマあるあるなのだろうか…デートや密会も、刺客がやってくるのも船の上。
港や運河でふたりでいるシーンが本当に絵のように美しかった。
なっこ

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