ウシュアイア

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしいのウシュアイアのレビュー・感想・評価

3.7
陰キャラをこじらせて恋人をもった経験をもたずに30歳を迎えた安達清は、都市伝説であると言われる「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」が実現し、身体に触れるを(モノや衣服を介しても可)相手の心を読める魔法(精神感応能力)を身につけてしまい、同期のイケメンエース社員の黒澤優一に好かれていることを知り、困惑しながらも黒澤との交流、交際により成長していくというお話。

結論から書くと『おっさんずラブ』の感覚で観られる作品。

1月に放送を開始したアニメ第一話を観て、BLではあるものの、ストーリー上のギミックが効いておもしろそうだと感じ、サブスクで観てしまった。

ジャンルとしてはBLになるが、ウィキペディアにもあるが作者は「恋愛に奥手な主人公が超能力で心を読めるようにしたらどうなるか」というテーマのラブコメで構想し、結果BLになったということは、ちょっとドラマでもアニメでも見ればすぐにわかる。恋愛に限らず人間関係で、他人が何を考えているか分からず悩むことは多いし、しかし分かったところでどうしたらいいか分からないということはあり、テーマ設定としては普遍的である。恋愛未経験者が思いもよらない相手から好意を寄せられたらさらに大変で、それが同性でえらいこっちゃ…という話。

アニメを観たときに、イケメン設定とはいえ黒澤ですら最近の30歳にしてはしっかりおじさんぽく描かれ、安達もかわいいとは言うにはちょっと苦しいキャラデザだと感じたが、ドラマのキャスティングはちゃんと最近の30歳に見え、赤楚衛二は陰キャだけどよく見ると愛嬌のあるという安達になっており、町田啓太はイケメンサイボーグともいえる黒澤というように絵では実現しきれなかった設定どおりのビジュアルになっていた。
(それに対して六角と湊はいかにも漫画原作チックなビジュアルで少し浮いていた)

原作、アニメとはストーリーがどう違うかは分からないが、1話30分12話で起承転結し、きわどいシーンもほとんどないので、見やすい。赤楚衛二と町田啓太の妙は、『おっさんずラブ』(ちゃんと見ていないが)の、老若男女問わず愛嬌を感じられる田中圭と振り切れた吉田鋼太郎の芝居に通じるものがある。

おそらく、アニメで本作を知って注目されるのではないかと。

以上、観ていない人向け。

以下、ネタバレあり。

この作品には、SF倫理に基づく道徳性が盛り込まれていて、意外と深い。主人公は精神感応能力で仕事や恋愛を進めることに後ろめたさを感じ苦悩しており、本当にいいやつなのである。SFの大家・筒井康隆の作品などでもたびたび言及されているが、超能力はチート能力であり、細田守版『時をかける少女』で明確に示されているように、超能力は人の心を踏みにじりうるのだ。ましてや精神感応能力(テレパシー)は本来知りえない究極のプライバシー侵害をするもので、恋愛に使うなどというのはもってのほか。『SPY×FAMILY』のようなコメディを想定していたのかもしれないが、まじめな恋愛のほっこりした話に着地したのは当然の帰結なのだ。

同性である黒澤からの好意の中身が、人間性の承認に基づいているというところもニクい。恋愛感情に発展してしまうと困惑してしまうこともあるとは思うが、やはり気づかぬところで自分が承認されていたことは誰にとっても素直にうれしいことだ。葬送のフリーレンじゃないが、思いは言葉にすれば伝わらないよ、ということで、黒澤は安達に伝えればいいのだろうが、なかなかこれは難しい。よくよく考えると黒澤のようなタイプが安達タイプをほめたりすると、上から目線やら嫌味、マウントととられかねないのだ。恋愛感情じゃなくても、男は思いを伝えた方がいいと分かっていても、思いを伝えあうのに独特の難しさがあるんですよね。

ただ、同性カップルはもう一組成立させる必要はなかったかな。むしろ、恋愛で大事なことは、男女でも変わらないよ、ってしても説得力があったのではないか。
ウシュアイア

ウシュアイア