アニマル泉

なん・なんだのアニマル泉のレビュー・感想・評価

なん・なんだ(2021年製作の映画)
4.1
寺脇研が制作、出演がピンク映画の二大男優の下元史朗と佐野和宏に烏丸せつこ、監督・山嵜晋平、黄昏の人生の愛とペーソスを描く。下元が歩き、走る映画だ。冒頭の下元が雪駄で走るショットがいい。山嵜は芝居を手持ち長回しで描く。歩きながらの会話が多い。下元と娘・和田光沙が烏丸の不倫の相手を探す場面、歩く下元のアップごしに和田は画面奥で芝居して、さらに画面手前に来る縦の動きの芝居が面白い。初恋の男・外波山文明と会う場面はワンシーン・ワンカット、画面は見ている下元のアップで押して外波山の会話はオフになる。このオフり方が大胆だ。随所で下元をきっちりと主軸に描く山嵜の手腕が光っている。和田が自分も不倫していることを下元に告げる芝居場の長回しも力強かった。素晴らしかったのは下元が佐野に烏丸を譲ると言う場面、距離がある二人を引きのツーショットのまま描いた。力量がないと撮れない本作の白眉のショットだ。一方で下元と烏丸の場面はアップの切返しが多い。二人の芝居をモンタージュできっちりと紡いでいく。この辺りのバランス感覚はなかなかしたたかだ。本作は黄昏時のマジックアワーが多い。坂道、公団の高層階、ベランダ、丘など「高さ」が主題となっている。横須賀の公団の海、京都の鴨川、奈良の山、「水」と「山」も対比される。
「浮気じゃない、本気だ」「嫌いだったモツ鍋を食べられるようになる、それが夫婦かも」高齢者の恋は介護でもあり体力との戦いでもある。下元が好演。佐野は実際に咽頭癌治療で声帯を失っていて、さすがにリアルだ。
脚本は図式的な所がある。パンフレットで烏丸が指摘している事はすべてその通りだ。本作は写真とカメラが全編を貫く重要な小道具になっている。とても映画的なのだがいまひとつ活かされていない。写真撮影が何回かあるが、もっと鮮やかに整理すべきだろう。
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