タスマニア

百花のタスマニアのレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
3.0
2022年86本目。

王道的に心を揺さぶってくる作品かと思いきや、思いの外「泣かせにきてる」感はなくて、意外にあっさりしていて、物足りなさもあった印象。
「全く共感できない!」という程でもなく、「記憶」に関して、自分なりに受け取るものもあった。
それでも、なんか、もっと分かりやすい感動映画と思ってたので、拍子抜け感が。

自分は「河合優実を見に行った」と言っても過言でもないので、この映画では一分ぐらいしか出てこないので、悲しすぎた笑
岡山天音とか、北村有起哉とかも、かなりのチョイ役で勿体なさあったけど、この二人はその数分で役者の色や魅力が出るようなセリフやキャラクター設計で、「これはこれでアリか」って納得できた。
だからこそ、個人的には「河合優実をもっと効果的に使ってくれ!!!!」って思ってしまった。

一方で、原田美枝子は演技素晴らしすぎた。
一人で複数の年代の女性を描く、"時間的な奥行き" を2時間で感じさせるのがすごい。
どの年齢でもお綺麗なことは変わりないけど、"女" と "母親" のグラデーションを自由自在に演じ分けている感じすごい。
日本アカデミー賞で原田美枝子が賞取るのはなんか納得できる。

認知症という、"記憶" と "家族" が密接に関わる題材で、「こんなに大事なことでも、何故忘れてしまうんだろう?」「こんなに苦しいことなのに、何故忘れられないんだろう?」の両面を描かれているのは良いなって思った。
同じ出来事でも、受け手のスタンスや状況次第で、その出来事に対する記憶の解像度は違う。
ある人にとっては「一生忘れたくないかけがえないのない出来事」であり、またある人には「何でもない人生の一ページ」である。
自分達は、そんな日々の連続を紡いでいるんだなって思った。
それは家族なのか、友人なのか、恋人なのか。

そんな綺麗な感想を抱きつつも、母親として百合子が泉に対してとった行動が、あまりにも暴力的すぎて、飲み込みきれないところもある。
「こっちは忘れられないんだよ!」と泉が言う。まさにその通り。
たった1年。その1年が子供時代の泉の心に何をもたらしたか、何故泉が許さなければならないのか。ただ、忘れていくだけの百合子の狡さが際立って目についてしまい、半分の花火にノレない。
泉に百合子との大事な記憶を忘れさせたトリガーの一つは、百合子自身の行動ではないか。

基本的な展開が結構「キツイな」という感覚がある中で、認知症に対する描写や演出が優れているところを評価したいんだけど、「ファーザー」で既に発明されてたしなぁ・・・という感情が勝ってしまった。

一輪挿しの花、半分の花火、大きいニジマス、思い出を盗む空き巣、イチゴ、単体のモチーフやエピソードは「好きかも」って部分はあった。
けれども、子供が割を食う映画はやっぱりちょっと辛いな。
タスマニア

タスマニア