きざにいちゃん

向田理髪店のきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

向田理髪店(2022年製作の映画)
3.6
直木賞作家、奥田秀朗の短編集が原作。映画は原作の北海道のかつての炭鉱町を、九州の元炭鉱町(大牟田)に変えている。原作は未読。

善人ばかりが住む昭和の昔からあまり変化のない田舎町の暮らしをホッコリと描く作品。
予定調和の人情劇であり、コミカルなパートが滑りがちなのも、ある意味洗練されない田舎の笑いを確信犯的に演出しているのか(多分違う)…

過疎化し、限界集落となり、消えて行ってしまうような運命にある地方の町は日本には沢山ある。そこに対する主張はありながらも、映画はそれを深掘りすることはない。オラが町の温かなお伽噺として、地方の美点を肯定的に描く。

消えゆく町の運命も笑って受け入れようとする諦観もまた故郷への愛情の形だと言うような、高橋克実のはにかむような笑みが印象的。

個人的にこの作品の白眉は向田理髪店の奥さん役の富田靖子である。
現在53歳の彼女の、あっけらかんとしたキュートでお茶目なおばさんぷりのなんと可愛らしいことか…

小品的な作品だが、町興しを狙った地方のフィルム・コミッションと本作制作スタッフの共同製作の姿は、両者のコラボの美しい理想であるように感じた。