きざにいちゃん

52ヘルツのクジラたちのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.1
2021年本屋大賞受賞時に原作小説を読んだ。
原作の持つ力が大きいことも理由だろう。端折りながらも原作の持つ雰囲気をかなり忠実に映像化していると思う。だから物語の展開は分かっていたが、それでもしっかり泣かされた。
ただ、志尊淳演じるアンさんの容姿が、原作では確かアンパンマンのような愛嬌ある小太りの人であったように記憶する。ゆえに切なさは原作の方がより大きかったように感じる(イメージ的には若い塚地武雅?)

主演の杉咲花無くしてはこの作品の成功はなかったと言っていい。芝居の上手さでは同年代の女性俳優の中でも出色だが、本作品でも好演とか熱演という域を超えて、そこに生きている「きなこ」の息吹をスクリーンの中に感じてしまうほどだった。偶然、本作と近いタイミングで公開され、同じように迫真の演技を見せた『市子』とキャラがかぶってしまっているのは、彼女にとっては不運だったかもしれない。

ヤングケアラー、ワーキングプア、毒親、ニグレクト、DV、そしてジェンダー。現代の社会病理をこれでもかと盛り込みながらも、詰め込み感やあざとさが感じられないのは、それぞれの因果関連と連鎖反応が現実の世界でも起きているリアリティゆえだろう。一時代前はそれをイヤミスや救われない乾いた悲劇として描いたが今作は違う。人に言えず一人抱え込む闇はリアルに描き、それでもその闇の中に芽生える小さな灯火を優しく描く。
映画化された凪良ゆうの『流浪の月』や、同じく本屋大賞や直木賞にノミネートされた一穂ミチの小説なども同じスタイルで、今の流行りということもできる。

エンドロールに作品の海外販売のスタッフがクレジットされていた。この作品が海外でどう評価されるのか、もし海外でリメイクされるとしたら国によってどんな風に翻案されるのか興味深い。