きざにいちゃん

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビューのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

4.0
元気が出る楽しく、可愛らしい作品だった。
“劇伴が”という意味ではなく、作品そのものが持つ軽快なリズム、テンポが心地いい。
バラエティ豊かな登場人物たちの人間らしさがいい。
低予算映画だろうが、良質で美味しい小品である。

ハイスクール卒業時の若者たちの一日を描く青春群像劇といえば、ジョージ・ルーカスの出世作『アメリカン・グラフティ』を思い出すが、今作はその現代版といってもいい。
アメリカン・グラフティが描くのは1962年の高校生。それから60年近く時代を経て、暮らしも文化も常識や価値観も、更には音楽も変わったけれど、18才世代の本質的なところは、いい意味で変わってないなぁとなんだかほっこりした心持ちになるのである。

80年代の青春を描いたフィービー・ケイツ、ショーン・ペンの『初体験リッジモントハイ』や、トム・クルーズが白ブリーフ一丁で腰を振って踊っていた『卒業白書』等の青春映画とも時代の違いを超えた同質の味がある。加えて、時代が近い名作『レディバード』を彷彿とさせる、この年代だからこそ抱える苦悩やその昇華、成長も描いている。

ただ、惜しむらくは主役の二人がタイトルの「ブックスマート」(ガリ勉一辺倒の常識知らず)という雰囲気ではないこと。
いい大学へ行く為に勉強以外のことは全て犠牲にしてきた割には二人とも決しておとなしくないし、初めからユーモアセンス溢れるイケてる魅力あるキャラなのである。
もっともっと目立たない二人であった方が説得力もあり、その変化や成長がより際立ってくる。そういう点では『テルマ&ルイーズ』の二人が人物造形のお手本だと思う。

そうは言うものの、現代のLGBTQを悲壮感や啓蒙的な描写をすることなく、当たり前の日常としてさらりと入れてくる巧みさなども今日的な明るさにつながっている。

とにかくアメリカのハイスクールものというのはおバカで明るくていい。
日本の高校卒業ものは、どうしても甘酸っぱいセンチメンタルな作品になる。それはそれで日本文化のもつ「卒業」の良さでもあるのだが…

ともあれ、「今の時代ならでは」かつ「昔ながらの」青春映画の傑作だろう。