きざにいちゃん

Dear Pyongyang ディア・ピョンヤンのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

4.0
『スープとイデオロギー』『かぞくのくに』のヤン・ヨンヒ監督作品で、同監督の一連の北朝鮮ドキュメンタリーの第一作にあたる。

所謂「帰還事業(帰国事業)」で多くの在日コリアンが日本の高度成長期から80年代にかけて北に渡った。この作品は、帰還事業で息子たち3人を北に送り出した監督自身の家族を追うドキュメンタリー。北朝鮮での息子たち家族との再会を中心に赤裸々に在日家族と北朝鮮のありさまを描く。

父親が朝鮮総連の重鎮ゆえに許されたのだろう。平壌での庶民の生活の様子をこれほど克明に記録した映像を初めてみた。貴重な映像資料といえる。
ヤン・ヨンヒ監督の北朝鮮渡航がこの映画以降、許可されなくなったというのも、これが北朝鮮にとって暴露された「不都合な真実」だったからだろう。(『かぞくのくに』が渡航不許可の理由だと思ったが、この作品が原因らしい)

『スープとイデオロギー』が母の物語だったのに対してこちらは父との物語。
信じていた祖国に対する失望やその祖国のために捧げた自分の人生、口には出さないその思想行動の蹉跌。それでも一縷の祖国への希望を捨てきれない切ない未練。
強がりを言いつつも溢れてしまう父親の思いが祖国とは何かを訴えてくる。

70年代当時、就職や社会における在日コリアンに対する日本社会の差別が無ければ、彼らは帰国しなかった可能性は高い。この家族の不幸もなかったかもしれない。
この作品は日本における在日コリアン差別を描く作品ではないが、『福田村事件』と地続きの日本の加害の歴史が垣間見える。