きざにいちゃん

少女は卒業しないのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
3.7
卒業シーズンにぴったりの青春群像劇。
原作は朝井リョウの短編集らしいが未読。
4人の女子高生それぞれの卒業物語を並行して綴ってゆく構成。

群像劇の名作であるポール・ハギスの『クラッシュ』やイニャリトゥの『アモーレス・ペロス』は事前情報を入れなくてもスクリーンに惹き込まれるが、今作はそうではない。4人がみな同じ制服を着たどこにでもいそうな女子高生であることと、映画としての見せ方が上手く無いのか、「主人公が4人いる群像劇」であることを知らずに見ると、平凡でありふれた学園生活のスナップ写真の積み重ねを見せられているようで、つまらなくなる。4人以外の端役の生徒も出てくるので誰が誰かわからなくなるし、追うべき人物を見失う。ゆえに、自分自身、実際に一度途中で止めた。
ただ「主人公が4人いる群像劇」というリードさえあれば、なかなかの良作といえる。

原作者朝井リョウの年令から想像すると、この物語の時代は彼が高校生活を送った2005、6年頃か。地方のある程度以上学力レベルの進学校が舞台ということになる。
個人的には登場人物の様子が自分自身が高校生であった昭和の時代とあまり変わらないように感じられた。(テレビドラマ『白線流し』と似たような甘酸っぱく懐かしい印象)

若い世代にもそこそこウケのいい映画だったようだが、果たして現役の同年代の若者たちが感情移入して共感しているのか、「ウチらとは違うけどなんかエモい」と思って見ているのか興味深いところではある。もし前者であるなら、日本の高校生の青春時代というものが今も昔も普遍性があるということになるのだが…本当だろうか?

気になるのは河合優実演じる山城まなみ編。
彼がなぜああいうことになったかを恐らく原作でもあえて伏せているのだろうが、やはり彼女自身、その「何故」はいちばん知りたいところであるはず。そこを観客の想像に委ねる余白として省略して描くのは、どうも納得がいかなかった。

もう一つ。あのダニーボーイを歌うHIMI君だが…
下手ではないが、みなが圧倒されて聞き惚れるほどの歌唱ではないように思う。
作品名を失念したがかつて佐藤健が演じるスーパーボーカリストの歌を無音で演出する作品があった。それがいいと言う訳ではない。
吹き替えの歌声に口パクで合わせるのもシラけるし、既に有名な実力歌手をキャスティングするのも意外性が無くて台無しである。
小説では読者の想像に委ねられるものを映画は映像化しなければならない。その難題に想像力と創造力をどう駆使するかが映画屋である。予算制約や柵もあるだろうが、今作のあのシーンは違和感が残る演出だった。

エンドロールにながれる「みゆな」のテーマソングは、物語世界にあった爽やかな旅立ちを歌っていて印象深い、いい曲だった。