ドント

TAR/ターのドントのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.5
 2022年。おもしろかった。世界的な指揮者、リディア・ターが過去や人間関係のやらかしなどによりボロボロとすごい勢いで孤立・没落していく様を描く恐怖のドラマ映画。
 おもしろかったのだが、もっとおもしろくなったのではという気持ちも生じてしまった。人間ドラマをやりつつも全体に突き放して描いている。長回しとか映像や構図などもクールというよりか「冷たい」という感触があり、それはそれでいいのだけれど、その他に感じるものが少ないので、もうひとつグッと来ないのであった。
 つまり映画の背後に「皮肉」とか「狂気」とか「不安」とか「怒り」とかそういうものがなくて、クールさ、冷たさだけで成り立っている。説明を後回しにして不親切なストーリーや背景なども「冷たさ」を強化する。
 ついでに言うとクラシックのなんかすごい博識な会話がどんどん交わされ、そういう中で長回しとか構図とかややこしい物語など凝ったものがお出しされるため、賢い感じ、クレバーに撮ろうとしてる感じみたいなのばかりが目立ち、なんだかこっちもツーンとした気持ちになってしまう。
 なんか悪口ばかり書いているが面白かったのである。ケイト・ブランシェットは「これ実録映画じゃね? 何らかのなりきり演技じゃね?」と思わせるレベルで「高慢な指揮者」を演じていて圧倒的にすごいし、周辺の人々の演技も、特に目線・視線の雄弁さがヒリつくほどだし、温度の低~い映像やリディアを苛立たせ不安にさせる音の立ち上がり方などもよかった。ピリピリしてるとね……こういう耳の障り方、しますね……
 そして何よりオチが、終盤の強引な「都落ち」展開も含めてかなり異次元の方角から飛んできたので「えっ……それ!?」という驚きを味わえた。このオチ、こちら方面には詳しくなかったが、詳細は伏せるもののミラ・ジョボビッチのおかげでギリギリ気づけたのであった。ありがとうミラ・ジョボビッチ。
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