むらむら

神々の山嶺のむらむらのレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
5.0
エベレストに挑む孤高のオッサン登山家・羽生と、その姿を被写体に収めようとするオッサンカメラマン深町の話。 

原作小説読んだことあるが、まさかフランスでアニメ映画化されるとは思わなんだ、と思って劇場にて鑑賞。

映画館、周りは山好きなオッサンだらけ。

髭モジャのオッサン二人が山で「うううう……」とか「おおお……」とか呻いたり喚いたりする姿をオッサンたちが映画館で鑑賞する、というおっさんずラブな時間だったが、作品自体は原作に忠実で、オッサンの端くれとしての俺も満足。

なにより、雪崩、吹雪、酸欠、落石、幻影など、山の災難がフルコースで襲ってくる展開が、圧倒的な描写で描かれてて凄い迫力。

それにしても凄い熱量の作品。映画館に雪崩が起きるんじゃないかと錯覚したくらい。いやー、俺がカメラマン深町だったら、こんな大変な撮影しないで、適当に街中でパンチラとか撮って生活してたね絶対。

世界最高峰であるエベレストは8776m。
これまた8776mって、絶妙に人間の手に届く高さなんだよね。実際に初登頂の記録は1953年らしいし。エベレストが10万メートルの高さとかだったら登ろうという人もいないだろうに……。いやいるか……。

ちなみに、この初登頂、伝説的なイギリス人登山家のジョージ・マロリーが1924年に実現していたという説もある。その説を証明する、マロリーが持っていたであろうカメラの行方が、この作品の横軸となる。

「ここに俺ガイルから山に登る!」と、素人には全く理解不能な理由で危険な山へ挑む孤高の登山家・羽生と、マロリーと羽生を取り憑かれたように追うカメラマン・深町。

羽生は空気の読めない一匹狼で、実際にバディを山の事故で亡くしても、エベレストに一人、挑み続ける。

いやー、ホント、登山は危険だらけ、ってのがよく分かる。エベレストの登山者の百人に一人が帰らぬ人となるらしい。

こんなに危険なんだったら、山に登るの、全面禁止してやりたくなる。俺が大金持ちだったら、いますぐ世界中の山を天保山クラスに馴らしてやって、山男たちの遭難を防いであげたいわ。

羽生の声優(日本公開版)は大塚明夫さん。エベレスト登頂する羽生とシェルパが無線で話しかけるシーンがあるのだが、大塚明夫が無線で話しかけてくると「スネーク!」って言いたくなるよね。 

フランスの映画とは思えないほど時代考証は見事。加えて、深町の部屋に松本大洋の「鉄コン筋クリート」があったり、居酒屋に宮崎駿の似顔絵が飾ってあったり、制作スタッフが日本好きなんだなーってことも伝わってきて嬉しくなる。

ただ、細かいとこだが、一部、ラーメン屋の縦書き看板の「ー」の伸ばし棒が「┃」じゃなくて「ー」のままになってるのは気になった。豆知識だが、海外の「なんちゃって日本料理店」では、この日本語特有の「縦書きだと『ー』が『┃』になってることが多く、そういう店はたいていがマズいので、よく俺は日本料理店行くときの基準にしてた)。

あとどーでもいいけど、羽生、

 「マロリーが登頂できたかどうかなんて、俺には関係ないんだ(キリッ)」 

って言ってる割に、登頂の証拠となるカメラを持ち帰ってるのお茶目すぎないか?

 (おしまい)
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