ひこくろ

アンネ・フランクと旅する日記のひこくろのレビュー・感想・評価

4.4
秀逸なアイデアと上質なアニメーションでもって実現した、これ以上ないと言えるほどの「アンネの日記」の映像化作品だった。

アンネが日記を書く相手として想像したイマジナリーフレンドのキティーが現代に現われるところから物語は始まる。
キティーは現状がわからないので、アンネがどこにもいないと不安になる。
アンネの部屋は博物館になっていて、知らない人々が押し寄せている。
耐えられなくなったキティーは、日記を持って、外へとアンネを探しに出る。

キティーが思い出すのは、神格化されたアンネ・フランクではなく、想像力豊かで自分の感情に素直な、ちょっと生意気であどけない、ごく普通の等身大の13歳のアンネの姿だ。
ああ、アンネ・フランクとはこういう女の子だったのかと思わされるし、だからこそ、余計にその悲劇の人生が痛々しく感じられてくる。

実体化したキティーは現代のアムステルダムを見て思う。
アンネと比べて、この世界の人たちは、はたして幸せと言えるのだろうか。
その痛烈とも言えるメッセージが重い。

キティーがアンネを探すことで、日記には書かれていない、アンネのその後も描かれていく。
それを知った後のキティーの悲しみは、たとえようがない。
そして、それは、「アンネの日記」と一緒に知っておくべきことだとも感じる。
また、その後でキティーが取る行動が、現代の問題ともリンクして、さらに意味を増すのがとてもいい。

たぶんCGなども大量に用いられているのだと思うが、アニメーションにはそんな感じが一切ない。
むしろ、セル画時代のディズニーアニメを彷彿とさせる感じで、動きの面白さにも見入ってしまった。
アニメーションの表現として素晴らしい出来だと思う。

「アンネの日記」を読んだことがある人にも、そうでない人にも観てほしい。
そして、ここからアンネの世界に踏み入れてほしい。
そう思える、最高の映像化作品だと信じる。
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