ストーリーにドラマチックな起伏がないのでぼんやり見てるとつまらない映画だったという感想になるかもしれない。それこそタイトルのように「目を澄ませて」見ないとケイコの感情の揺れは見えてはこない。セリフは少ないが、会長のケイコをひとりのボクサーとして見守る姿勢とかケイコの会長への信頼とかがちゃんと感覚として伝わってくる。ジムのトレーナーの2人もいい人だけど、せめて試合中セコンドで伝える手話だけでも覚えてくれたらなぁ。五島ジムの会長はケイコが来るならばとすぐに手話の勉強して、弟の新しい彼女もそうだけどコミュニケーション能力の高さに女性を割り振るのは実際問題そうなのだと思う。職場で手話で話しかけてくるのもやはり女性だった。
ケイコがノートに書いた「ジムの廃業が許せない」という一文。字ヅラはキツイがそれまでのケイコを見ていると分かる荒川ボクシングジム愛が詰まってて胸がキュッとなる。
16ミリフィルムで撮影したとのことで画像のザラつき感が東京の下町にピッタリ合っている。ラストシーン、ケイコが負けた対戦相手から丁寧な挨拶を受けて、土手を駆け上がるカットがとてもいい。描かれなかったその先がどんなものであろうとケイコの気持ちは負けないのだとそんな気がした。
時代がコロナ禍の最中という設定になっていたのもマスク生活で聾者であるケイコと健常者主体の世界とのズレをリアルに見せていた。相手の口元が見えないことで言葉が読み取れず、さらに表情も見えないのはなかなか怖いものだなと改めて思った。コンビニでポイントカード持ってますか？をマイバック持ってますかと勘違いしたり道端でぶつかって罵倒するオッサンは想定内としても警察官が職質を諦めるくだりはなかなかツライものがある。深夜、ボコボコに腫れた顔をしてる女性にたいして話も聞かずそそくさと立ち去って、本当に事件だったらと思うと背筋が寒くなった。
