きざにいちゃん

PLAN 75のきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
3.7
珍しく初日に観る。
カンヌ特別表彰と、日本が世界に先駆けて直面する高齢国家と言う社会問題を扱った話題性もあってほぼ満員。しかも年配老夫婦の観客の多い事に仰天。個人的には是非この年代の人たちの感想が聞きたい。

早川千絵さんという新人監督の実績は殆ど知らないが立派なものだった。とても新人とは思えない堂々とした作品だった。
共同脚本でプロデュースにもクレジットされているジェイソン・グレイという方も初耳だが、Facebookを見ると黒沢清監督と協働した実績あり、日本映画に軸足を置いて活躍されている方らしい。
日本、フランス、フィリピンというグローバルな現場で、実力派のスタッフたちがうまくチーム力を発揮して早川監督をサポートすることで生まれた果実のだろう、と勝手に想像する。

しかし、手放しで激賞するのは難しい。
良くも悪くも余白が多過ぎる。ミチさんはじめ、登場人物が「どんな人生を生きているどんな人か」が省略され過ぎていて人物に立体感が無い。「そこは観客の想像・創造でいい」というのかもしれないが、人生の最期を語る物語であるからこそ、省略すべきではないところだと思う。

ミチさんにしても叔父さんにしても、彼らが「ひとりの寂しい独居老人」というだけでは足りない。喜怒哀楽や性格描写があまりに少ないと、観客が内に持つものとの共鳴がどうしても弱くなるからである。
若い岡部くんや成宮さんにしてもそう。彼らが感じたシンパシーとは何なのか、なぜ彼らはああした行動に出たのか、同じ若者でも冒頭で自殺する若者と彼らはどう違ってどう同じなのか…
フィリピン人のマリアに至っては全く描ききれていない。特に彼女は「いのち」というものに切実な思いがあるはずで、PLAN75応募者に接して起きる感情のケミストリーが表現されないといけない。そこにテーマに関わるひとつの大きな鉱脈があるはずだからである。

ゆえに、強い感動が作れていない。あわあわとしたものになってしまっている。
ここでいう感動とは善人同士が流す安っぽいお涙を言っているのではない。心にどれだけタッチできるか、ということである。

必要最小限のセリフに絞って殆どを絵で見せる撮り方は映画らしくてとても好感が持てるし、色彩、構図やフォーカスというカメラワークも極めて秀逸で、格調高い。

セリフの少ない難しいドラマでの役者陣の好演には脱帽である。倍賞千恵子さんは言うまでもなく、磯村くんもいいし、特にこの作品でも河合優実は成宮さんの内面の感情を見事に演じていて素晴らしい。本当にいい若手俳優だとつくづく思う。

という訳で、長々と素人が偉そうなことを好き勝手に言ってしまったが、なかなかの映画だった。観た人たちの心に石を投げる、意義深い作品で、カンヌもなかなか観る目を持っている、と思う。