カルダモン

ハッチング―孵化―のカルダモンのレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
4.0
笑顔が絶えない〈普通の家庭〉をSNSにアップする母。「私たちは特別なことなんてないのよ。どこにでもある普通の家族なの」というアピールが造花のようにウソ臭い。そのニセモノの感じが部屋のインテリアにも溢れていて気色が悪い。

自慢の娘を持ち世間に承認されたい母
母に承認されたい娘
構って欲しい弟
添え物の父

ある時、パステルカラーに包まれた部屋に真っ黒のカラスが飛び込んでくる。穢らわしいモノがテリトリーを侵害してきたことに異常な反応を見せる母。カラスを殺して森に埋める娘はその傍で鳥の卵を発見し、こっそりと自室に持ち帰って孵化を待つ。



鳥の中には生まれた雛をえこ贔屓して育てる種類もいるそうで。最初に生まれた雛を集中的に可愛がり、あとから孵った雛は餓死するのだとか。この映画の予告映像を見て想像していたのは、最後に卵からなにが産まれるのか、という話だったのだけど全然違ってた。むしろ産まれてからがこの映画の本領で、親鳥から餌をもらうために必死でアピールする雛の話だった。

途中E.T.かな?と思うような展開も面白く、親の見た目や言葉を真似をしてみたり気を引いてみたり。涙ぐましい努力がなんともせつない。同時にSNS等で顕著にみられる承認欲求と本能的な承認欲求を同じまな板に乗せてしまったような映画。見様見真似で変容していく雛の姿がやがて人間と違わなくなった時に家族がどうなるのかというホームインベージョン。ビジュアルに目を奪われがちではあるけれど実は脚本が凝っていた。