Anima48

NOPE/ノープのAnima48のレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.2
怖かったり、びっくりする事が苦手なんだけど、たった2人くらいしかいない映画館で見た。真っ暗な空間で一人きり。びっくりするシーンでポップコーンをぶちまけちゃった、まるで席でポップコーン作ってるみたいに弾け飛んでゆく。手に持ったコーラは全く無傷で、最悪な奇跡だったりする。

序盤の聖書にある、見世物にする・されるという力関係。主人公たちは予想もできない奇妙な事態を撮影する事に挑んでゆく、第三者からするとそうしなくちゃいけない強烈な理由はないのに。その撮影の先には人が観て楽しむという要素は必ずあって、エンターティメントや映画等に駆り立てられ、はまり込んでゆく人間の三大欲求を超えた業•性のような物を感じた。これは、映像に限らず何かを表現しようとする人の原罪なのかもって気がする。

この映画はリメイクやリブートじゃないし、ヒット作の続編でもない。完全にオリジナルな作品は見たこともない世界を見たい・聞きたいと思っていたここ暫くの間では一番楽しかった。確かに序盤は不確かな超常現象やSFの要素でそれが一本のロープのようにストーリーを引っ張っていってくれる、手がかりは予告編で感じたあの感じ。それが話の核心に到達するかと思うと、ロープは手から離れてもっと見たこともない世界に吸い上げられる。それは本当に広がりがある美しい渓谷を見下ろす光景で、ある種静けさすら感じたりする。そこから一転、美しい混沌が待っている。混沌の前触れとなるあの雲がジョーズの背びれやT-REXの足音のようにも思えてくる頃、空は海のような密林のような貌になってきた。そして音響、あの観客たちの悲鳴が空を駆け巡る様は見えないジェットコースターを聞いているかの様だった。筋書きはシンプル、だけどそこに散りばめられた引用・記号を思い起こすと何かの寓話のようにも感じるけれど、まあ、何も考えずにどうなるかわからないこの事態に圧倒され続けるのも悪くない。

カウボーイが2人、元子役でアジア系の遊園地園長:ジュープとタレント馬を育てる黒人の牧場主:OJ。2人の共通項は映画スタジオ、遊園地、ショーといった見世物とハリウッド周辺のあの渓谷。ジュープはあの状況をコントロールできると過信し希望を見出すけれど、動物に通じているOJは父を殺した最悪な奇跡から始まる状況にある法則を探し当てる。

野生生物を飼いならして見世物にすることは、ただの娯楽の為に本来の習性等を根こそぎ破壊して、生き方をまるきり変えてしまう行為、それは本来自分がコントロールし得ない何かを管理できるという増長の上に成り立つ罪深さがある。ジュープは、混乱の中奇跡的に立っている靴を見つめることでチンパンジーの饗宴を生き延びる。そしてあの瞬間彼には人の理解を超えた不条理さ・恐怖を飼いならせることができる選ばれた運命にあると誤解してしまったような気がする。そんなジュープにとって後にあの状況に出会ったことはむしろ必然と感じてしまったのかもしれない。

人間はどうしても世界を自分の主人公とする物語として捉えがちなところがあって、そこで主人公は不死の存在だ。僕達は多数の物語、例えば映画を楽しんでいるけれど、カウボーイ2人はその周縁部に居たり、中心からはじき出された出自としている。..とりわけカウボーイ≒西部劇には非白人には脚光が当たらなかった。そしてOJは映画の始祖の直系の子孫、その運命に従うようにあの現象を映すことに執着していく。これは彼らがショービジネスを取り戻す映画にも思えてくる。そして見世物に執着する生き方に彼らは賭けていく。

ちょっと前までは見当たらなかったのにあの何かは2人の棲家を一方的に縄張りにして、意思疎通も出来ずに見下ろしてくる。何かあの国で過去に起こった事を感じさせる。

明るくなった座席で散らばったポップコーンを集めたよ。コーラについては正しくは不幸中の幸いかな。
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