Anima48

グランツーリスモのAnima48のレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.0
待ちに待ったゲームの映画化!夢中でやりこんだプレイが再現されるかな?喜び勇んで席に座るとあれ?コントローラーが無い!..実際にプレイできる訳じゃないのね、何年も前の思い出。

こんなすごい話本当にあったんだ、隣席の人にこれって本当の話なの?ホントに?ってずっと聞きたくなる。コントローラーをプロのハンドルへと持ち替えた男の物語は神懸っているけど実話に基づいていて(どれほど実際にあった事かは別として)。自分の中の可能性の概念が少し変わるのを感じる。ゲームに夢中で親からそろそろちゃんとしなさい言われている若い人達に向けて、十分やる気を与えてくれるんじゃないかな。夢を見る・見せてくれるってこういうこと,自分の好きな事を好きでかまわない、やりこんでもいい、その先で夢が叶うかもしれないんだ!

満足できない現状から脱出して切磋琢磨して夢を掴む、いつの時代にもある王道な展開。いろんな要素が詰め込まれてあっさり見える時もある、既視感もたまには頭を掠める。でもそんな夢を必要とする人は何処かにいつもいる。どう生きていくかわからない時でも誰かが夢を叶えていてそれは決して不可能じゃない。だからみんな心の何処かで希望が奪われずに生きていける。その時代毎の夢の叶え方はあって、21世紀のこの時期にこの作品は眩しく思う。これからもこう言った作品は作られてほしい、そう思う。

まるで地上のトップガンのようだった。若者が夢を抱き挫折を味わうけれど、善き師や仲間を得て羽ばたく。そんな大事なところはぶれない。ただトップガンとは対照的。主人公はがつがつしていないし教官からは信頼されていない。異性には奥手。でも不思議と心の放物線はトップガンマーベリックと似た曲線を描いていたように思う。

ヤンはゲームをしている間は父親との関係や彼女が欲しいとかもちろんレーサーになりたいとかの願望や課題が棚上げになっていたけど、夢を成し遂げていく過程で急速にクリアにしていく。結局夢や仕事が実現すれば色んな事が解決されるのかもしれない、けれどドラマ並みに多くの要素が詰め込まれているので一つ一つの要素が少し駆け足気味。家庭環境や恋愛に必要以上に力を入れる描写はなかったような気もする。

マリオやリンクのような主人公が繰り広げる英雄譚じゃないグランツーリスモ。ゾンビを倒したり、異世界を旅するわけでもない。いってみれば車がレース場をリアルに走り回るだけに特化している。でも今回はゲームの映画化ではなくてゲームにまつわる実話の映画化。このゲームの実在のプレイヤーで、ゲーマーをプロのレーサーに養成するGTアカデミーを卒業したヤンのクエスト。だからそれだけでも映画になるので描写は過度にゲームにより寄り添わない。

一般的なゲーマーへの偏見がまだあった時なんだろう。父親は元スポーツ選手で体育会系、アドバイスは彼なりの愛情はあったけど、もうEスポーツ黎明期!親としての普遍性と時代遅れを漂わせていた。あれからゲームに肯定的になったのは世の中の趨勢?今後同じケースが増えていくといいな!ポケモンマスターが警察犬のハンドラーになるとか、youtubeでお菓子作り覚えた子がパティシエコンクールで金賞とるとか、そんな感じで。

上位7人のゲーマーが日産チームの実際のレーサーになるためのトレーニングを受けるプロモーション。GTに提案し実現させるマーケッターの口八丁ぶりが愉しいし、レースで動くヒト・モノ・カネのスケールは大きい。それをプロジェクトXとして見てみたくもなる。

今更ながらグランツーリスモというシミュレーター(ゲームじゃない)ってすごいなと思う。プレイヤーは、プロドライバーのドライビングやさまざまなメーカーやモデルを模倣するために、多種多様なパーツの在庫を使って、具体的なスペックまで車をカスタマイズできる。でも現実世界ではクラッシュしてもリセットボタンはないし、ドライバーは死ぬだけでなく、他人をも殺してしまうかもしれない。教習所のシミュレータで衝突した時に教官に投げつけられた言葉を思い出した。“君は路上に出さない。”

少年漫画のように話は進んでいく。スカウトを経たゲームトーナメントというシンデレラ発掘なので自分からの売り込みというステップが無い、そこはあっさりと進む。上位7人のゲーマーが集められ中には女性レーサーもいる、健全な時代の進化なのかな?寝室も一緒なのは驚いたけれど。例えば、野球の練習なら筋トレからキャッチボールや走り込み、ノックやシート打撃などのメニューがあるって未経験でも想像はつく、でもモータースポーツの練習メニューは初めて知った。筋トレに動体視力、走り込み(人間の足で)もあるって新鮮だった、本当にアスリート。次に並んだシミュレーションマシンでの技量アップと実車を使ったレース、身体能力と勝負強さの獲得。ゲーマーからレーサーへの変貌の手順をもう少し詳しく見てみたかった気がする、シミュレーションとリアルの違いとか。選別の中で我の強いライバルもいるけど、振るいにかけらる様子があっさりしているのがゲームっぽい。ここまでいろいろ詰め込まれていてドラマやアニメならここまででSEASON1くらい掛かるエピソードじゃないかな?

アカデミーではライバルとの切磋琢磨よりもコーチとヤンの関係構築に焦点があたってた。ブラックサバスのパラノイド、ウォーピッグのリフは90年代を越えても勢いが消えない、むしろ増してる?夢に破れ自分に折り合いをつけた男の心にもう一度灯がともる様子はコーチの再生の物語にも見える。その過去の挫折が火口になって意気消沈した若いヤンに燃え移る様子が暖かい。実はヤンの心中にはもう薪を用意されていた、グランツーリスモによって。その薪をコーチが探し当てる心の旅でもあって、薪に火が付くとそこからは一直線だった。かつてのライバルがシムレーサーチームの同僚として戻り、競争相手が同窓会のように集まるあたりは夢中になる。チームが出来て物事が前に進む話は大好き。ここまででSEASON2終わるくらいのエピソードにはなると思う。

ゲームにまつわる話だったのでリアルとデジタルをうまく溶け込ませている、それにSNSでのやりとりの描写がこなれていた。でもそれ以上にやっぱりレース、カメラがマシンを追う。地面スレスレから、サーキットの真上から、カメラは前方へと急降下しながらレースを体験する。初戦での洗礼と順位が上がっていくにつれ車の内部の仕組みがわかるのは楽しい。物凄く狭い運転席、小さなハンドル、凄まじいエンジン音、ピットクルーと話しながらレースを続ける様子。やっぱりエンジン音かな、グゥォ〜ングォ〜ン、ポワワワワァ~ンって凄いんだ!劇場体験できてよかったって今でも思う。

シミュレーションとリアルの世界への連携が、ビデオゲームのビジュアルを使ってポイント毎で表現されていた。ヤンの順位をはっきり教えてくれるアイコン、抜き去る時のライン表示。ゲームシートから分解図が組み立てられていく様子などはヤンがシミュレーターで培ったテクニックをリアルなレースに役立てているように見せていたと思う。当たり前だけれどレースとアクション映画のカーチェイスは違う、同じコースを何周もするし、壊れる建物や銃声などはないのでレースの楽しみは伝わってくる反面、少し同じような画面が続いていたようにも思う。逆にルマンでは昼夜・天候・疲労を通じて 同じコースでの24時間の移り変わりを見せてくれて過酷さに触れる事ができた。

・・あのハンドルコントローラー、欲しくなっちゃったよ。
Anima48

Anima48