Anima48

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3のAnima48のレビュー・感想・評価

4.2
かなり前iPodを手にした時は手の中に好きな曲を全部持ち歩いてる感覚が嬉しくて、仲間のカウンターでスピーカーに繋いでだらだら聞いてた。好きなアーティストを挙げる場面はジャンルがバラバラで好き、自分のipodにもジャンルとか関係なしに曲を入れてたから。

始まりはレディオヘッドの「クリープ」。mp3プレーヤ―入手を忘れてて驚き、深刻さの予感に怯んでしまう。ELOの愉しい曲や幼いグルードのダンスに注がれる優しい眼差しに溢れた前回と比べると、70年代の若々しい楽しさと90年代の陰鬱な想いの落差が話全体に影響してる。カセットからMP3プレーヤー?に変わり音楽の引き出しの幅が7.80年代から00年代頃まで広がったようで、クルー全員で回し聞きしてる?レインボーやアリスクーパーといった辺りからフローレンス+ザ・マシーンやフレーミングリップス達が新鮮かつ懐かしく映る。

考えてみたらこのチームはバンド、それも愛すべき支離滅裂なトラウマ持ちのメンバーが揃ったやんちゃなバンドのようで、減らず口か口下手しかいない仲間のコミュニケーションが愉しい。どう考えても勝ち目がない論戦で巻き返す為に繰り出す妙な屁理屈とか。「罠じゃない、対決だ。」失恋?の傷を抱えた自信過剰のおどけもののクイル、他人への共感や反省が苦手なドラッグス、マンティスは過剰に率直で、一見口下手なグルート、いつも怒りを抱えている姉妹。まあ、全てが普通の平均点の人間っている訳もなくて誰もが人から変人とかダメな奴って言われてしまう部分がどこかにあるので、そういった部分であのバンドの一員なのかもしれない。そういう意味でも「これはあなたの物語。」……そしてロケット、いつもシニカルで手癖の悪い彼の攻撃的な減らず口は今回影をひそめてしまう。

クイルとガモーラとの行く末が見れるかと思ってたらロケットの過去のフラッシュバックと彼の体の謎を解く本筋が交互に進んでいく。フラッシュバックの部分はMCUに似つかわしくないほど残酷で哀しい。これまで悩みを持ったり世間離れをした見かけや考えをもってる人を猛烈に笑い飛ばして悪態ばかりついていた彼には、被験者89P13としての虐待って言ってよいほどの荒涼とした過去があって….あれは気丈にふるまってたのかな?案外他人をシニカルに突っ込む人ってその人なりの辛さが背後にあるのかな?

今回のヴィランのハイエボリューションにとってロケットは創造主よりも優れた知性をもってしまった被創造物で、プライドを傷つけられた器の小さい悪い神様は嫉妬と執着が入り混じった飼い犬に手を噛まれたような憎悪を爆発させる。...実際はアライグマなんだけれど。ロケットはそんな出自も生涯もありのまま引き受けて名乗る事になってそんな多様性のスタンス、声明が眩しい。ありのまま、たとえそれが人から望まれず軽んじられていて親から捨てられてしまっても、そこから始めるしかないし、そこから伸ばしていってもいいんだ。

そもそも遺伝子の増殖の際の複製エラーからイレギュラーな特質を手に入れた、いってみればそんなはみ出し者が環境の中で選ばれていったのが進化ってこともある、そこから色々な種が成立する。なのに完璧な世界を創り出そうとする独りよがりなハイエボリューションにはありのままに生きているはみだしものの生き方は想定外で理解できなくって、家父長的な存在の多様性ってことのへの反応の社会分析になっていたようにも感じる。

何かを正確に記録出来て、それを元に破綻のない結論を見出すハイエボリューションの関係者達。でもそれは限られた既存のテストデータで統計的に保証された答えを導くaiのようなもので、そこから飛躍した考え-閃き-を得ることはできない。怒り狂う創造主は実はその限界を感じていたのかもしれない。

銀河の守護者達という名を持っている彼らだけれど、今回彼らは銀河を救うわけではなくて、仲間を救うことになる。そのためか昨年までのMCUにあった多次元宇宙的なものはあまり出てこずに“仲間の危機とその過去と変な性格を持つキャラクター達が成長し次のステップに進む”事にこちらも集中できてよかった。多幸感は変わらずあるけれどやっぱりファイナルっぽい作品を眺めると別れの予感が付きまとって、大好きなバンドの最後のアルバムを聞いたりライブを追っかけているような気にもなってしまう。そのあたりはエンドゲームを見てた感触を思い出した。ロケットを救う旅で、メンバーも個人の枷に向き合うことになって、家族と向き合い、自立し、怒りを克服する。思えば、1作目で母を思い仲間に出会い、2作目で父と出会って新たな仲間を得て、3作目は仲間の裏側に出会い、どう旅立つかそして何を残していくか、そんな人生のワンクールのようなシリーズだった。

“.....そしてみんな楽しく暮らしましたとさ”というようなエンディングを迎えたと思ったら次のエピソード、ときには配信シリーズが始まり、新たな仲間や他のシリーズとの絡みが生まれてひょっとしたらもうMCUがエンディングを迎えることはないのかもしれない,そんなMCUの中でもしっかりと収まりをつけてくれたのは素敵だった。

・・でも帰ってくるのを待ってしまう自分もいるんだけれど。
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