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ザ・フラッシュのAnima48のレビュー・感想・評価

ザ・フラッシュ(2023年製作の映画)
4.2
良かれと思ってとか、もう一回やって見たりとか、案外そう言う事はあまり上手くいかない。

フラッシュがメインのストーリーだけれどDCコミック全体に影響してしまった『フラッシュポイント』を下敷きにしている話だった。マルチバースや時間を行き来する話は注意して筋を追うと眩暈を覚えることもある、誰がどんな人柄に変わって誰と誰が入れ替わって誰がいなくなるのか。こういったクロスオーバー的なエピソードはヒーロー勢ぞろいで大盤振る舞いになる絵柄だけどそこは上映時間に収まるように登場人物を上手く絞り込んだと思う。オリジンの見せ方も斬新だったし。

ジャスティスリーグの劇中ではコメディーリリーフの役割で少々うざったさを覚えたバリー、今回はそんな楔から自由になっているし、ならざるを得ない。バリーは社会人になったけど両親の件も影を落として暗さも抱えている。両親の悲劇無しにまっすぐに育ったいつもハイでそそかっしい現地バリー(いきなり能力を手に入れて暴走する姿が愉しい。)と出会って、この若い分身を(トラブルを起こす時限爆弾のようだけど)相棒に走りって鍛えることになる。2人のギャップは楽しくて現地との対比で主人公バリーの癖が弱まり、以前そうだった自分を客観視して彼は成長していったようだ。自分よりも子供っぽい?自分を眺めると成長したり何か感じたりすることがあったのかもしれない。見ているこちらも悲劇が起こらなかった現地バリーを見る事で、主人公バリーの人格形成〜深い悲しみに浸り他人とのやり取りが途絶した青春や不合理な制度に耐え忍ぶことで出来上がった偏屈さ〜からくるうざったさを始めて理解できる。個人的にはこのシーンでのミラーの演じ分けが愉しくてこの設定、この演技力、そして残念でこういった見方はしたくないけれど最近のエピソードから人が持つ多面性ということも考えさせてくれる。なんだかこう自分と向き合い越えていくというか・・・。再生のための稲妻を浴びる自己犠牲、神々しいものを感じる。そしてバタフライエフェクトを思い出すあの別れ。バリーは少年期をやっとあの地点で卒業したんじゃないかな。

2人のバリーの道中は2匹の騒がしいチワワがじゃれながら歩くようなものでその手綱を握るのは見知らぬバットマン=ブルース・ウェイン。余生というか自分の境遇を受け入れ満ち足りたブルースというのを始めて眺めた。奇人の富豪というイメージが強かったキートンのブルースが色々あったけど平穏な生を歩んでいる。(アルフレッドの不在が劇中や現実での時間の流れを感じさせる、…庭手入れできてなかった。)そしてだからこそバリーの壊れかけの繊細さも受け止められている。2人のバリーの間に佇み画面とストーリーに落ち着きをもたらしていた。だからこちらは彼のメッセージをしっかり聞くことが出来た。“この傷跡があるからこそ、私たちは自分らしくいられるのだ。”肉親の死は避けられない、それに向き合う事の大切さ、哀しさそしてかけがえのなさも教えてくれたようにも思う。

そしてこの道中には途中からドーベルマンも同行する。解き放たれた彼じゃなくて彼女にはだれも綱なんてつけれはしない。クリプトン星人強すぎ問題はまだ続いているようで彼女の解放はちよっと遅れる。ワンダーウーマンとは少し違うけど不機嫌でパワフルで冷静な彼女は魅力的、バリーを抱え上昇していく姿が神々しい。彼女がスクリーンに現れる度に画を支配していたような気がする。

これまでのDC映画を想うとアクションシーンが楽しくて鮮やか。まずはジャスティスリーグの通常稼働している様子が見れて嬉しい。フラッシュの走り出す姿がスピードスケートの姿の様で綺麗。超スピードの描写は稲妻のエフェクトもあって激しい。スピードスターと言えばXmenのクイックシルバーの描写は本当に楽しかったけど似たシーンも楽しませてくれる。ベイビーたちを目の前にしてチョコバーを掴む、そりゃそうだ腹が減っては戦は出来ずだし。・・氷砂糖を持って歩くか、スーツにお弁当箱入れるランドセル付けたらどうだろう?サンドイッチのメニューとかかなりの甘党だね。あの様子だとよくブルースにおごってもらってるのかな?相当アクションの合間に楽器が堕ちてくるとか穴に落ちるとかトムとジェリーかバグズバニーを見てるようなシーンも楽しい。能力がない時のバリーは行動力があるだけの一般人でどうだろう?バットマンのすごさがわかったかな?

久しぶりにロゴが黄色いバットマンを見た、バットケイブの中身も良く見れた!バットウィングの離陸シーンが初めて目にできて嬉しい、バットウイングのトンデモ装備がそのままで楽しい。あのハサミとかコクピットがぐるぐる回るとか。これまでのヒーロームービでリアル志向のメカニックが続いていた中で、ああいったヤッターマンにでも出てきそうな装備は爽快だし特徴が出ると思う。…だけど科学力も哲学もあるもの同士が単純な腕っぷしに頼る以外の展開もそろそろ見てみたい。

時間を戻すシーンは独創的だったと思う。前向きに走っているのか後ろに向きに走っているのかわからない漢字や周囲で起きていることの質感が人工的で艶やかだった。好みは分かれるかもしれないけれど。まあ、時間をこまめに戻してくれる辺りがジョジョの奇妙な冒険みたい。

ジャスティスリーグ以降長い間見ることがなかったこの世界のフラッシュ、バットマン(その間スナイダー版のジャスティスリーグっていう素敵な贈り物はあったけれど)制作時間や待機時期が長かったので、色々な人が関わり、思いが加わって愉しいシーンは多いしハッとする画もたくさんあった。制作体制がもうマルチバースだったかな。少し奇妙さやそれまでの作品群との別れを感じる箇所はあるけれどそれもなんだか愛おしい。バートン監督のゴシック的な物の見方やスナイダー監督の色褪せたコントラスト強い画面、制作会社の意向の鮮やかな画とユーモアとかそんなものが交差した映画だったと思う。

…この交差点から何処に走っていくんだろう。
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