きざにいちゃん

LOVE LIFEのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

LOVE LIFE(2022年製作の映画)
3.4
「よこがお」「淵に立つ」の深田監督の新作にしてヴェネチア映画祭コンペ部門参加作品ということで期待して初日に映画館へ。
人間の性(さが)を抉るように描く個性派の監督なので期待半分、不安半分。
過去作も「よこがお」は良かったが、「淵に立つ」は肯定できなかった。この監督の作品には安定感・安心感が持てない、という個人的な思いがある。

そして、結果として今作は…
「淵に立つ」側だった。
はっきり言って共感出来ない。
喪失や死、家族と個人、そして愛と人生。
それらの描き方は、理屈として分からなくはないが、面白くない。というか、気に入らない。痛いし、不快。

是枝監督が「ベイビー・ブローカー」で家族(擬似家族)という器を通して、闇の中の小さな光のような人間の善性への共鳴を描いた。そしてそれは観る者の共感を呼び、心を洗う優しさがあった。
深田監督は同じように家族という器を通して、人間の孤独や、表面上幸せそうに見える心の闇を描く。それは人間の生々しく醜い本性だが、やはり直視しづらいものであるし、観客が喜んで受け入れるものではない。映画芸術としてはクオリティが高いかもしれないが…
文学で例えれば、是枝作品は文学的品位を持ちながらも娯楽性を忘れない直木賞的。深田作品は、完全に純文学だ。

技巧的には沢山の挑戦が見られる。
家族の中の個人、孤独。様々な喪失感を人はどうやって埋めるのか、そこに愛があるのか?ないとしたら愛とは一体なんなのか…
言葉にならない深い情動を映像にして投げかけてくる。高等な映像芸術だと思う。フランス映画のような趣もある。

ただ、そうは言うものの、端的に言えば、誰一人として感情移入、共感できる人物がいないので、かなりの映画見巧者(みごうしゃ)でなければ、不快さに席を立ってしまうような映画だと思う。

ヴェネチアやカンヌでの評価と興行的成功はどちらかと言うと逆の相関なので、もしかしたらヴェネチアで高く評価されるのかもしれない…ただ、韓国人かつ聾者設定は徒らに物語を複雑にし過ぎているような違和感は拭えなかった。

(追記)
「雨の中の踊り」にどこか既視感を感じていたのは、ポン・ジュノの『母なる証明』の踊る母親だ、と後から気付いた。
あの母親が踊る心境と妙子の心境にはどこか通底するものがある。
故に、もしかしたら今作のあのシーンは、ポン・ジュノへのオマージュというか、ポン・ジュノへの深田監督なりのアンサーソングなのかもしれないな、と。

ダンサーの田中泯さんが、「人類は言葉より先に踊りを持ったはずだ」という持論を語っている。それもまた、あのシーンを読み解くヒントかもしれない。
言語化、台詞に出来ない複雑な感情の発露があの場面の踊りであり、それがこの作品の描く、矛盾に満ちた模糊として包摂的な愛情や人生観の姿なのかもしれない。