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神は見返りを求めるのNUZOOのレビュー・感想・評価

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
3.8
好意からくる無償の行為の面倒くささと、有償の関係の残酷さを対比的に描いた話(…なのか?)。
監督が世界を性悪説的な見方で描いていて、出てくる人物たちも、そこに向ける目線も悪意がすごい。特にYouTuberへの皮肉まみれの目線は笑える。時々挟まれる架空のYouTubeの出来もそれっぽすぎるせいで映画を観ている気がしないくらいだった。

実際この作品に映画っぽさを感じづらいのは、キャラクターたちが戯画的すぎるのもあるかもしれない。主人公以外の人たちの意地悪な描き方は被害妄想的ともいえる。ただ、主人公たるムロツヨシだけは変な行動を起こしてもギリギリリアリティを保っているから興味を失わずに観ていられた。押し殺している感情まで伝わる演技がいい。

ムロツヨシが報われない前半の展開はけっこう定番の流れで、面白さよりも嫌さが勝るが、そこから外れていく中盤のあたりが特に面白く、公園での対決はこの映画で一番面白いシーンだった。自撮り棒のくだりの秀逸な笑いと、「相手の悪口じゃなくて好きなことで戦えよ」という、ネットでよく見る正論風の薄っぺらい言説を一蹴するやりとりも楽しい。

吉田恵輔作品はいくつか見ただけだけど、こじれていくやりとりによって観客のストレスを溜めていくところ、登場人物たちのどうしようもない断絶の先にあるほんの少しのコミュニケーションの可能性をセンチメンタルに描くところに一貫したものを感じる。
しかもそのコミュニケーションの可能性は取り返せなくなってから気づくという描写も多い。

この映画も後半にそういうシーンが現れるけど、その先も話が続くのでどこに行くんだ、と不安にさせられもした。「ここで終わっていいな」というポイントがいくつかある映画だと思う。ただ、その先にもっと嫌な展開を用意しているのがこの映画のきついところ。ラストのひと展開ははたして入れるべきだったのかと思ってしまう。

中盤にぐっと盛り上がって、終盤にかけてよくわからなくなっていったので微妙な気持ちになったが、ともかく役者たちが生き生きしていたのがよかった。面白いか面白くないかでいえば全然面白い。
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