むさじー

セールス・ガールの考現学/セールス・ガールのむさじーのレビュー・感想・評価

3.6
<自由で豊かな性を謳う>

モンゴルのウランバートルに住む大学生のサロールは、ひょんなことからアダルトショップで販売と配達のバイトを始める。人生経験豊かな女性オーナーのカティアが営むその店には大人のオモチャが所狭しと並んでいて、毎日様々な客が訪れた。そしてカティアや客たちとの交流を通して、サロールは自分らしく生きることを学んでいく。
親の言うがままに生きて覇気のないサロールが、年配女性や仕事を通じて自分探しをし成長する物語だが、それと並行してカティアも、囚われていた過去から解放されていく。年齢も性格も全く異なる二人が共鳴し反発しながら変化していく様は、祖母と孫のように微笑ましく、女性らしいしなやかさに溢れていた。
映画ではモンゴル語以外にロシア語が頻繁に出るのが印象的で、かつては社会主義国でロシア寄りだったことを思い起こさせる。そして二人が、社会主義で育った古い大人と民主主義で育った若者を象徴していて、古い大人は過去の因習を捨てて自由に生きよ、若者は自由で豊かな時代を溌剌と生きよ、というメッセージのように思えた。
カティアいわく「苦しみを知って幸せを知る。幸せだけというのはない」「赤ちゃんが真似して言葉を覚えるように、セックスも真似して覚えるの」等々、古い大人から保守的で覇気のない若者に檄を飛ばしているようで、ウンチクに富んだ名言が多い。キワモノめいた素材だが、丁寧に撮っているのでイヤらしさはなく、温かな気持ちにさせる佳作だ。
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