しぇんみん

ザリガニの鳴くところのしぇんみんのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.8
"…そして、そこが私の居場所。湿地のずっと向こう。ザリガニの鳴くところ。"

1969年ノースカロライナ州_

地元の有力者の息子で人気者だった青年チェイスの変死体が湿地帯で発見される。

殺人容疑で逮捕されたのは、「湿地の娘」と呼ばれ蔑まれていた女性、カイアだった。

彼女は幼いころに家族に置き去りにされて以来、たった1人、過酷な自然の中で生き抜いてきた。

他者との関わりを避けて生きるカイアだったが、心優しい青年テイトとの出会いか、彼女の運命を狂わせ始める。

そして法廷で語られたのは、彼女の壮絶な半生だった…。

大まかな構成としては、殺人事件のあった1969年と、幼いカイアが湿地で一人で生きていくこととなった1952年からの半生が描かれ、終盤に向けて2つの時代が収束してゆく。

物語は殺人事件に関するミステリーを中心として進み、差別や育児放棄などの社会問題を絡め、美しい湿地の風景と多様な生物への考察がエッセンスとして散りばめられている。

たが、殺人の詳細(殺害に向かう移動方法や殺し方)を描かない事から見ても、どちらかというと、過酷な人生を歩んだ一人の女性の人間ドラマの側面が強いと感じた。

そして、意味の解りづらい題名『ザリガニの鳴くところ』。

仲の良かった兄が家を出る際に口にした「父親の暴力から逃れる場所」。

鳴かないザリガニがなぜ鳴くのか?

そこは、ザリガニの住む沼の深みのような(だが実際には存在しない)、人知の及ばぬ隔絶された深淵を指し、カイアにとっては唯一安心できる場所であり、離れがたい場所のことなのではないだろうか。

ラスト間際、あるモノが偶然発見されるが、その意味をどう考えるかは、観客それぞれ異なるだろう。

本作は、派手さはないが様々な要素が折り重なって紡がれた上質な作品だと思う。

ハナマル!

2023/07/04
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