「私、どう見える?」
「とても素敵だ」
ニューヨーク、マンハッタン。
仕事一筋の会社員テッド・クレイマー。
遣り甲斐のある仕事に就きたいと相談する妻の話に、聞く耳も持たないテッド。
彼はその日告げられた昇進話を胸に喜び勇んで帰宅するが、妻のジョアンナは浮かない顔だ。
そしてジョアンナは一人息子のビリーをも置いて家を出ていってしまう。
その日から、テッドの生活は一変してしまうのだった…。
原題は『Kramer vs. Kramer』。
仕事仕事で家庭を顧みない夫と独立心の芽生えた妻との、子供の親権を賭けた争いの物語。
同時に、子育てをしたことがなかった父親と子供の奮闘記でもある。
ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープ、そして子役も含め、演者たちの演技が絶妙で素晴らしい作品だ。
父は、一番大切だった仕事を放棄してでも、子供と二人で過ごす時間を大切にすることで、父子の愛を再認識する。
フレンチトーストを父子二人で作るシーンも、序盤とラスト間際のシーンの対比が微笑ましく、双方心に残る。
母は、一番大切だった子供を捨ててでも一人になることで心を取り戻し、母子の愛を再認識する。
以前は愛し合ったはずのお互いの傷口をえぐるような裁判を起こしてでも、一度は捨てた息子を取り戻そうとする。
一見、あまりに自分勝手な行動にも思えるが、母親としては至極当然な行為なのかもしれない。
だが、お互いに自らの正当性を訴えるばかりで、相手や子供の気持ち考えることができない裁判のシーンは、観ていて辛いものがあった。
一緒に生活していると、家族でも意識しないと見えない大切なもの。
家族と生活を共にする観客それぞれが、自分の身に置き換えて観てしまうのではないだろうか。
それでも、互いに相手の気持ちに寄り添い、子供を一番に考えられたラストは非常に暖かい気持ちにさせてくれた。
ハナマル!
2023/04/08