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ロストケアのDcatcHerKのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.5
 先に鑑賞した妻が、「良かったのでどうしても観てもらいたいから一緒に観に行かない?」と誘われたので、久しぶりに映画を鑑賞した。今年、4本目の映画。ここ数年で、一番映画を観ていない年。観た映画のレビューも書けずにいた。観終わってしばらく経ったけど、どうしてもこの映画はレビューを書いておこうと、やっと向き合うことにした。
 俳優陣の演技は、素晴らしかった。
 主人公斯波宗典を演じた松山ケンイチさん、検事の大友秀実を演じた長澤まさみさんも良かったけど、特に主人公斯波宗典の父親を演じた柄本明さんの演技は物凄かった。自分のことが自分でできない歯痒さが、痛切に伝わってきた。また、父をどうしてあげることもできない自分にいら立っている主人公波宗典を演じた松山ケンイチさんも良かった。
 我が家も、義母がコロナ禍に入ると同時くらいに脳梗塞で倒れ、救急病院入院→保健施設入所→ケアホームに入所と3年経った。
 そして、義母の寂しさを何とかしたいという思いで、1年後健康な義父も同じケアホームに入所した。父母は、自分たちのお金でそういう施設に入れたので、映画とは環境が違う点もあるが、親の介護という事実に子がどう向き合うか、介護が必要になった当事者たちが苦悩しているということは一緒だと思う。
 妻は「施設に入れることの後ろめたさや、頼りにしていた母が以前のようでなくなった寂しさ、何もできないことへの自分自身に対するいら立ち」などがあり、映画の斯波親子と自分の父母と重なるところが多く、涙が止まらなくてしかたなかったとのことだった。
 たしかに、介護の大変さや、今までの親子関係が全く違うものになっていくことはよく理解できたし、社会がそういう環境になった人たちを支えていかなければならないこともよく理解できた。
 しかしである、行政を悪者にする手法はどうしても納得いかない。どうして、“反権力”みたいな安直な映画になるのだろう。反権力がカッコいいこと?と思っているのだろうか。
 斯波が生活保護申請に行った際の担当者の描き方が酷過ぎて、笑えない。どんな組織でもいろんな人がいるので、こんな職員が絶対にいないとまでは言わないが、さすがにこれはデフォルメし過ぎでしょという感じ。
 自分も一人暮らしをしていた母親が、亡くなる数カ月前に介護施設にお世話になった際、あまり行政に迷惑をかけたくないという思いがあったところ、市の福祉士さんとの面接で「家族で抱え込まなくていいですよ」と言われた際は、申し訳ないという気持ちになったが、本当に有難かった。
 この映画では、介護のために仕事を辞めてしまったが、働きながら介護施設に入ることもできたはずではと思う。
 行政の制度も職員も完璧なものではないかもしれないが、この映画の監督とスタッフは、安易な映画作りは止めて、もう少し現場のことをみてからにした方が良いと思う。いつも思うが、映画関係者が文化人がどうかわからないが、江戸時代やロシアや中国ならともかく、民主主義が機能している日本で反権力なんて、時代遅れも甚だしいという感じだ。
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