おむぼ

ブエノスアイレス 4Kレストア版のおむぼのレビュー・感想・評価

4.0
 地球から見て香港の反対側を舞台に、同性愛者の退廃的恋愛の行く末を見つめたロードムービーながら、最後には未来への希望を見せる。

 ファイとウィンのように、面倒見の良い=独占欲がある面が強い人間と自由=責任感の無い面が強い人間の組み合わせって、何か共通項があるように見えたとしても、いわゆる似て非なるもの同士という感じで、この映画で描かれる同性愛とかの枠組みに捉えずともどうしようもない人間関係だと思う。
何かしらの執着のみで繋がっている。
身の回りで何かこの人とうまくいかないんだよな、嫌なんだよなと思ったら大体そんな感じだったという、人間あるあるだ。

 部屋に残された滝が描かれた置物と劇伴のタンゴなど相まって、イグアスの滝が過去を清算してくれるように映されている。
それでも、締めでは未来への希望を見せているようで、過去への執着の対象が更新されたに過ぎないと思った。
懲りない男…というか、アティチュードの根底は変わることは無いという人間らしさが見えた。
それでも自分のいる場所は変えられるから未来があるのだと思い込めるということだと思う。

 それを伝える音楽と独白と画面の使い方の組み合わせがやっぱり好きなところで、ウォン・カーウァイ監督全ての映画に必ず挟まれる、タイムラプス、早回し、コマ落ちしたスローモーション、ド直球の時計の画といった映像表現と話の組み合わせ、その辺諸々、時間が呆気なく過ぎ行くことの表現を徹底していることで、瞬間を意識させて映画を生き物たらしめていると感じる。

 『ブエノスアイレス』の劇伴は音そのものだけでなく、既存の音楽の題名や歌詞で、劇中の人にセリフを語らせることなく、心情を語らせているのも大衆的な自然さだと思う。
疲れ果てた街の雑踏で『I Have Been in You』の後に、タンゴが流れるイグアスの滝を見て、台湾に向かって飯屋で希望を感じ、どこかに向かうメトロに乗る中で『Happy Together』な気分になっている。

 あとは監督がこの映画の着想を得たマヌエル・プイグ著『ブエノスアイレス事件』を読んでみたいと思った。
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