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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のおむぼのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.6
 戦争の体験とその捉え方、それ以外は楽天的に見える雰囲気という水木しげる氏の精神を根底にした主人公らに社会性を内包して、パッと見た要素はミステリとホラー映画の様式美をかけ合わせて詰め込んでいた印象だった。
話の構造は『犬神家の一族』の2次創作パロディと思えるくらい徹底していた。

 この作品の鬼畜悪党の男は自身を集団と同一視していることが印象深く、キャラクターはあくまで大衆だった。
描かれているのは戦後10年ほどなので言葉通りの軍国主義思想だが、それだけに限らず、自信の無い者が不安にかられてすぐに答えを求めてそれらしい導きをすぐに見つけられて、自己都合のままにそれを鵜呑みにして短絡的に解決したと思い込み、多数派の思想に加入して強くなれたと勘違いしていく流れが生まれやすい仕組みになっている現代において、集団生活の中で身近に感じられる大衆の中の1人のメタファーと思える。

 異能バトル周辺の鉄パイプ串刺しで勢い良く目玉飛び出すのは最高。
そういうゴア描写にしても、一時の敵を封じ込めても生ける屍の怨念が解き放たれて、結局、嫌なことが多くある今の世の中が形成されている無常観にしても、ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画のようでもある。

 目が覚めた後に一言、自らの気持ちを説明してしまったがために、取ってつけたように感じてしまうマジックリアリズムだけは興醒めしてしまった。便利なつながり以上の意味が無いと感じてしまう。
……そう思いつつも、エンドロールで今作のキャラクターが水木しげる氏の画風で描かれて、15年前に深夜アニメで見た思い入れのある導入部分をやってくれるのはむしろ興奮のるつぼだ。結局思い出だよ。
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