けんたろう

2046 4Kレストア版のけんたろうのレビュー・感想・評価

2046 4Kレストア版(2004年製作の映画)
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『Blade Runner 2049』に「Spider-Man 2099」に「EXPO 2025」に……ぎいいいいいいい!!!


てつきり2046年の物語りなのかと。てつきりゴリゴリのSFなのかと。然う思ふぢやありませんか。だつてタイトルが「2046」なんですよ。其れあ思ふぢやありませんか。
でも、全然違ひました。何んと「2046」とは部屋番号のことであり、何んとSFなのは小説家の主人公が書いた物語りであり。
もう吃驚です。たゞ、拍子抜けといふのは全く致しません。寧ろ、王家衛は矢張り凄いと驚嘆してしまひました。
まあ有り体に申せば、他の王家衛作品ほど惹かれは致しません。然しながら、現つと(現つを表現した)物語りとが交差するなかで時間軸が捻じ曲げられ、其処に幾重にも及ぶ失恋模様が折り重ねられ、加へて『欲望の翼』や『花様年華』の要素が然りげなく(然し確実に)盛り込まれ──好きです。

常に変はりゆく現実を生きてゐるにも拘らず、過去のひとを想うてしまふ人々。其んな遠き地へ目を向けてゐるやうな彼れらに、即ち心こゝに在らざる現在の彼れらに、叶はぬ恋ひをしてしまふ人々。果たして人間、何うして斯うなんでございませう。何んとも切なうございます。章子怡に至つては、もう哀れで哀れで仕様がございません。とかく、人々の交差及びシインの聯続がひどく猥雑でありながら、共通の哀愁を揺蕩うてゐる様には、感慨深きものを覚えました。
又た、現実の物語りへの落とし込み方にも非常に恋うてしまひます。現実と理想即ち彼れの真実を混ぜ合はせて、一本の作品に仕立て上げる其の様子は、只々楽しい。

然しながら、先ほど述べたとほり、他の王家衛作品ほどは惹かれません。何故かと自問したところ、もう答へは一つしか浮かびませんでした。作品のなかで、一人浮いてゐる存在が居たのです。まあ逆に云へば、たつた一人で作品をガラリと変へてしまふ訳ですから、逸材と云へませう。素晴らしい。さすが。御立派。糞食らへ。
やゝ重複した表現に成つてはしまひますが、矢張り格好の付け方が格好いゝ男と、格好の付け方が格好悪い男が世の中には居ります。蓋し本作最大の失敗は、格好の付け方が格好悪い男をキヤステイングしてしまうたことでございませう。断言できますが、キザな男に粋な表現は出来ません。キヤステイングミスの一言に尽きます。
何んだか勝手に口惜しい気分に成つた次第でございます。


追記
「2046」つて、英中共同声明内で言及された「2046年」から来てるのか! 嗚呼まづい。もう一回観なければ。