もるがな

リバー、流れないでよのもるがなのネタバレレビュー・内容・結末

リバー、流れないでよ(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

長閑な京都の老舗旅館が巻き込まれる突然の2分間のタイムループという設定は当初短すぎると思ったものの、これを逆手に取った2分間のワンカットは作品の設定やリアリティラインに対して非常に誠実であり、それでいながらその縛りが故に取れる行動に限界があるという一種の抑制になっているのも面白い。またついつい群像劇に走りがちな設定の中で割り切って主人公の女の子に視点を固定したのも英断で、見えてなかった部分でのドタバタ劇で外部から話を動かしたのも巧みな点であろう。また、舞台の季節や天候が撮影時期によって変わってしまうという2分間ワンカット撮影の難点を、世界線の移動で説明をつけたのは設定の落とし込み方が非常に上手かった。

キャラクターは舞台劇っぽさはあるものの、このシチュエーションの中で動かす人数にしては全員キャラが立っており、何より会話劇の面白さも拍車がかかっていて台詞はどれもキレッキレである。ギャグもとにかく冴え渡っていてコメディとしても面白い。

2分間ループという一見すると発狂しそうな設定の中、作品特有のどこかトボけた空気を維持し続けたバランス感覚は巧みで、そんな状況にしてはやけに聞き分けが良すぎる気もするのだが、それが真面目に客のことを考えてきて営業してきた旅館だからこそ良客に恵まれたというのがあり、根底に流れているのはヒューマニズムなのであろう。そのせいかループものの難点であるループ現象の説明に時間が取られなかったのが幸いで、また全員がループに陥るという特殊状況もあって説明がかなり端折れたのはこの手の作品にしては大きいと思う。それでいて発狂シーンや事象の解明からは逃げずに向き合っており、直接要因であるタイムマシンはぶっ飛び過ぎてる気もするが、そのぶっ飛び具合が変にこねくり回さなかった潔さであるとも思う。この日常の中での少し不思議は藤子・F・不二雄のSF短編の読み味に近いものがある。

最後の「未来は楽しい?」という台詞が概ね全てのテーマを集約していると言っても過言ではなく、時間ループという設定との符合性もある中で、今の時代、今のご時世でこのセリフを衒いもなく出せることにこの作品の素晴らしさがあるのだろう。
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