ベイビー

ショーイング・アップのベイビーのレビュー・感想・評価

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)
4.5
とても素晴らしい作品でした。
そして感想を言語化するのが難しい作品。

美術学校で教壇をとりながら自分の陶芸個展が数日後に控えているリジー。それまでの数日間で巻き起こるさまざまな苛立ち。創作への苛立ちや隣人に対する苛立ち、そして家族への苛立ち、部屋の給湯器が壊れている苛立ち… このように現実に起こる些細な苛立ちが、リジー目線でコミカルに描かれている作品でした。

芸術の評価なんてものは個人差があり、答えが存在しない曖昧なもの。そんな主観より確かなものは現実的な“日常”となるのですが、その現実も自分が思うように事が運ばず、些細なトラブルがいろいろ続き、現実は自分が望むような未来を見せてくれません。

だとすれば、現実よりも確かなものは“自分の心”だと言えるでしょう。自分が感じる感動、自分が信じる感性に嘘はなく、唯一信用できる存在です。その心のまま、あるがままに創作し続けていれば、作品の中に確かな自分らしさが見えてくるものです。

それで言えば、この作品もケリー・ライカート監督らしい作品と言えるのかもしれません。淡々としたストーリーながらも登場人物たちの心の動きがありありと描かれていて、彼女らしい繊細な演出と比喩表現は作品を品良く纏め上げていたように感じられます。

その象徴とするのが、やはりリジーの作品であり、陶芸という創作過程であり、傷ついた鳩だったと思います。またその辺りのことに触れ過ぎるとネタバレになってしまいますので、感想はコメント欄に入れておきます。

今作も観終わった後に喜びと感動でしばらく座席から立つことができませんでした。本当に素敵な作品。やはりケリー・ライカート監督作品が大好きだと実感できました。

次は「ファーストカウ」観に行こーと。
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