はる

逆転のトライアングルのはるのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.1
鑑賞してから3週間ほど経った。どうしようかなと思いながらタイミングが合ったので観ることにした。
そういう感じだったので珍しく上映時間を7分ほど過ぎてシネコンの箱に入ると、これまた珍しく予告編などの時間が短かったらしく、ほぼジャストで本編が始まっていた(長尺だからかな)。
この作品のビジュアルを知っていれば、あの冒頭の男性モデルのシークエンスは印象が違いすぎる。それは観た人ならわかってもらえると思うが……。「あれ?」と感じつつも周囲の埋まっている席を思えば、間違った箱に入ってはいないようだ。それにしても、である。
モデル達の打ち合わせ、悪ふざけ、ショーが始まり、席の移動、誰かがはじかれる。この間ずっと「やべえ間違えたか」と内心グラグラしながら観ることになって、ようやくタイトルが出る。これがまた原題で「Triangle of Sadness」と出るから、合ってたなと安心しきれないというね笑。
そこから、主演カップルの「どっちが奢る」のしょうもないくだりが暫く続いて「間違いでもいいか、変わってて面白いから」に至った。

こういう鑑賞体験がまず珍しく、「意外性のある導入」を選択した製作側の意図を最大限に感じられたと言えなくもない笑。
リューベン・オストルンドは『フレンチアルプスで起きたこと』で知った作家だけど、数年経って“ワルさ”に磨きがかかったと言えそうで、その現れがあのアヴァンとモデルカップルのやりとりだろう。わざわざそこから始めるのは新味があるし、「クルーズ船と乗客」の構成でありがちな「主要キャストの謎」みたいなものは大幅に取り払われた。そしてその“ワルさ”は“上手さ”でもあったわけで、ラストの余韻に繋がっている。

あの狂乱のクルーズ船パートでは『ザ・メニュー』のことを思い出したりもして、やはり優れた作家たちは近いタイミングで似たテーマを扱うのだなと。だからハンバーガーまで出てくるのも必然なのかと思う。
それにしてもヒドい描写が続き、揺れもあってさすがに目を背けた。その中で笑えたのは、荒れた海で揺れの強い中、贅を尽くした皿が次々と出されて、揺れに慣れているスタッフたちが「船酔いには食べた方がいいですよ」と言うところ。「そんなわけないだろ」とツッコミながら、実は彼らが裕福な乗客たちに嫌がらせをしているのが可笑しくてたまらなかった。
そして汚れきった船内を移民と思わせるスタッフたちが淡々と磨き上げていくのを見て、どうやらいつものことなのだとわかる。

こういうワルさを積み上げてきているからこその、あの第三幕のカタルシスがあった。邦題で何があるかはわかりきっているのだが、ラストはさらにもう一捻りがあり、果たしてカールは……という終わり方も面白い。
アビゲイル役のドリー・デ・レオンはこれで国際的は評価を得たし、それが当然だと思える演技だった。これはつい考えてしまうが、『EEAAO』があれほどに盛り上がらなかったら、彼女のことはアジア系としてもっと取り上げられたのでは。とは言え、次はポール・フェイグの作品に出演する予定のようで、これからの活躍が注目される。

まあとにかく個人的には印象に残る作品になったのは間違いない。
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