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逆転のトライアングルのyumeayuのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.0
"←LOVE BOAT"

「バレンシアガ!H&M!」のコールから始まる本作。3章に分けられて語られる物語は、まず男性モデルであるカールの視点を介して、ファッション業界の現実が語られる。

イケメン白人モデルという、一般人から見れば何の不自由もなそうなカールだが、ファッション業界、モデル業界ではヒエラルキーはかなり下。ファッションショーでは観客席から爪弾きにされ、インフルエンサーの彼女ヤヤとの食事では、奢る奢らない問題で揉め、みっともない姿を晒す。
ステータスや収入による格差。前振りとなる第1章ですでに本作の前振りが完璧に描かれている。

そして豪華な大型ヨットが舞台となる第2章。
ここから作品は群像劇の体をなしていく。
客と搭乗員という構図は、貧富の差や支配する者とされる者を描き、船上という閉鎖空間は社会の縮図そのもの。
面白いのは客の中にも差があり、搭乗員の中にも差があるところ。立場や環境が変わればまた別のヒエラルキーが生まれる。世の中ありとあらゆる場所に格差があることがわかる。船上クルーズという非日常的な場面だが、そこで描かれる出来事は、誰もが少なからず体験したことがあるようなことが描かれており、共感できるものとなっていた。

そして第3章では遂に"逆転"が描かれる。
ここまで積み上げられてきた前振りが、一気に解放される。これまでの関係性が逆転し、男性モデルのカールや搭乗員の中でも下っぱの清掃員が生存者グループの中で優位に立つことになる。

しかし、一筋縄でいかないのが今作の意地悪なところ。ラストシーンは余韻を残すものとなっていた。悲しいかな、誰もが幸せになれる世界は存在しないのだろう。

本作は今どきの社会問題を取り上げながらも、風刺と皮肉が効いており、非常に見やすいブラックコメディであった。
パルムドール受賞作品ということで、小難しい内容なのかと思っていたが、現代に生きる誰もが楽しめ、考えさせられる作品となっている。
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