great兄やん

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

4.3
【一言で言うと】
「痛みを“造る”快感」

[あらすじ]
そう遠くない未来。人工的な環境に適応するため進化し続けた人類は、その結果として生物学的構造が変容し、痛みの感覚が消え去った。体内で新たな臓器が生み出される加速進化症候群という病気を抱えたアーティストのソールは、パートナーのカプリースとともに、臓器にタトゥーを施して摘出するというショーを披露し、大きな注目と人気を集めていた。そんな彼のもとに、生前プラスチックを食べていたという遺体が持ち込まれ...。

遅ればせながらもこちらを鑑賞。前作からおよそ7年ぶりの新作にも関わらずその“作家性”が微塵も欠けてない世界観の徹底ぶりはもはや感嘆せざるを得ないですし、相変わらず無機質にリビドーを植え付ける回りくどい問題提起の手法に手を焼きつつも、一切画面から目を離し難い魅力を放てるあの唯一無二さには“衰え”を感じさせない程でもあった。

まぁぶっちゃけ言えばその回りくどさに“我”を貫く力が強すぎる印象があって毎度頭を抱えてしまうのが彼の作品ならではですからね(^◇^;)...映画を観まくってる玄人ですら“???”を頭に埋め尽くす作品を齢80に達してもなお全開にできるクローネンバーグ“御大”は本当に凄まじいお方だと思うし、あんな“変態性”をエネルギッシュに且つ狂気的に描ける監督ってマジなんなんだよ😅…とも思ってしまう笑。

とにかく造形然り“コンセプト”の作り込みが余りにも尖りまくってる。むしろ尖りまくっててドン引きすらしてしまうほど笑。
そう遠くない未来では人類の器官が“進化”していって、痛覚すらなくなった世界において体に傷を付けることすら“アート”となる…っていう時点でクローネンバーグにしか描けない事象である事を瞬時に理解し、そこから解剖や手術などが“セックス”の一部として痛覚を“快楽”に変換させる描写は、まさしく麻薬そのものをメタファーとしたであろう危ない“背徳感”を感じてしまう。

序盤でプラスチック製のゴミ箱をバリバリ食べる子供のブッ飛び具合にもビックリでしたし、その子供を無惨にも枕で窒息死させる母親…ていうか、今作に出てくる登場人物全員何かしらの倫理観が欠如しているのが余りにもゾッとしましたね(・・;)...

それにクローネンバーグ作品常連のヴィゴ・モーテンセンと初参戦レア・セドゥの妖しくも今作の魅力の一端を担う存在感に目を惹かれますし、二人がパフォーマンスと称した“手術”のシーンは観てるこちらも新たな性癖の扉が開いてしまいそうになる笑。
普通ならば腹掻っ捌いて新たに作り出した内臓を取り出すなんぞ文面からでも痛々しさが滲み出てるのに、何故かあの二人がやるとなるとメチャクチャ“エロス”を感じるんですよね...キャストの補正にしろ、クローネンバーグの世界観にガッチリ呼応したあの存在感はまさに見事としか言いようがなかったです。

とにかく人間が待つ“進化”の先に訪れる変容は果たして“革新”か、それとも“衰退”か、不明瞭な未来における“不確実”な描写に冗談味がありつつも現実味を帯びた生々しさも仄かに香る一本でした。

“障がい”や“病気”というありふれた事物をこのようなSF寄りのボディ・ホラーとして調理してしまうクローネンバーグ監督のイマジネーションにはただただ驚かされますし、正直全て分かったかと言われれば断然“NO”なのだが、ある程度メタファーに推察や考察の余地を残すという匙加減が余りにも絶妙なのが良いんですよね😌...

“カオス”を“カオス”としてではなく、“警鐘”と歪んだ普遍性を持った未来をない交ぜに描き上げた彼の最新作。長年のブランクがあっても強烈な作品を封切るクローネンバーグ監督には脱帽でしかないです...