great兄やん

夜明けのすべてのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.8
【一言で言うと】
「苦しみに差し伸べる”恒星”」

[あらすじ]
PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる...。

遅ればせながらもこちらを鑑賞。『ケイコ 目を澄まして』という類稀なる傑作を生み出したあの三宅唱監督というのもありかなり期待を寄せていたが、ハッキリ言ってこれは期待以上。というか、”優しさ”という概念をここまで高純度に抽出できる三宅唱監督の手腕がそもそもレベチであり、今作において彼のネームバリューにより一層箔が付いたであろうと確信が持てる傑作だった。まさに”マイノリティ”の描写に対する最適解というのは、この映画のことかもしれません😌...

とにかくキャラクターの描き方がマジでピカイチ。PMSとパニック障がいという当事者にしか分かり得ない難解さがあるにも関わらず、それを”押し付ける”ではなく”寄り添う”形で藤沢さん・山添くんという日常に溶け込ませた絶妙かつ最良なキャラクターでしたし、その”疾患”を患う二人に対し社会の現実を冷徹に突き付ける訳でもなく、かと言って”悲劇のヒロイン”かの如く過度に悲観的側面を奉る煩わしさも無い、まさに寄り添いつつその症状を広く知ってもらいたいというダブルの側面で観客に明示していたのが何よりも素晴らしかったですね🤔...

それになんと言っても映像の美しさ。16mmフィルムで映された日常風景や街並みの情景がまさに”煌めき”として燦然と光り輝いており、画が引き締まったデジタルとはまた違いキャラクターの心情さえも表現出来得るかのような柔らかい映像美に観ているこちらも涙腺が刺激されてしまう🥲
特にカメラワークというか、”表現”という意味で一番グッと来たのが松村北斗演じる山添くんと渋川晴彦演じる山添くんの元上司・辻󠄀本とその息子とでカフェで会話してるシーン。山添くんがプラネタリウムについて喜々として話す中で辻󠄀本が涙ぐみながら相槌を交わすあの瞬間はまさに個人的今作一番のハイライトでもあったし、何よりもあれを言葉ではなく表情と目線で語る渋川兄貴の演技力よ…そもそも光石研といい、脇役の存在感というのが余りにも際立ちすぎてるんですよね。マジで。

他人には分かり得ない症状に対し、あたかも”普通”に接することで”障がい”という分断を無きものにする栗田科学の面子も素晴らしかったですし、やっぱりバイプレーヤーが輝く映画に駄作なしですよね😌...

とにかく全編に漂う柔和な優しさに疲弊しきったマインドが徐々に浄化されていく、まさにマイノリティへの”同情”ではなく苦しむ者との”共助”を純粋な眼差しで描き切った完全無欠の一本でした。

藤沢さんと山添くんを演じた上白石萌音・松村北斗の演技力も筆舌に尽くし難いものだったし、特に松村北斗に関しては『キリエのうた』から徐々に演技力を上げていってる感触が強く伝わってくるほど素晴らしい演技力だった。まさにアイドルではなく”俳優”として殻を破った瞬間に邂逅したような気がします(・・;)...

今作を観て思ったのが、世の中にはあの二人のように様々なハンデを携えて日常を生きる人もいるが、そういった者たちを100%の優しさで包み込める世界というのはハッキリ言って未だ存在しない。しかし、栗田科学のように純粋な優しさで出来た”場所”というのはこの世界にきっとあるということ。

自分では輝くことのできない”惑星”は優しさという”恒星”によって光り輝くように、三宅唱監督が紡ぎ出す小惑星の”救済”は何気ない日常が何よりも美しいという事に改めて気付かされましたね...