great兄やん

関心領域のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.3
【一言で言うと】
「死合わせの”箱庭”」

[あらすじ]
ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所。その横で幸せに暮らす司令官一家が住んでいた...。

アカデミー賞直前イベントにて。国際長編映画賞&音響賞受賞おめでとうございます!!🎉🎉🎉

強烈かつ残忍。俗に言う”ナチス”についての映画ではあるのだが、まさしく表面的な”それ”よりも深くそして確実に負の記憶が鈍痛の如く響き渡るであろう残酷さが滲み出ていた。着眼点の素晴らしさもそうだが、何よりも”意識外”からの暴力がここまで想像を掻き立たせる装置として機能するとは思いもよらなかったです😰...

とにかく”天国”と”地獄”が壁一枚隔てて存在しているという恐ろしさ。大邸宅にてドイツ人一家が仲睦まじく幸せに暮らす風景を淡々と映しているのだが、その幸せの”功績”の元がアウシュビッツ強制収容所における非人道的な悪虐行為に帰結しているからなのか、子ども達のはしゃぎ声や談笑、そして仕事熱心な父親という”幸福”の要素が、全て厭忌の”バイアス”として増幅してゆくというタチの悪さにひたすら顔が引きつりまくった😨
...ここまで他人の幸せを心底喜べないのも中々ないかもしれないが笑、それでもこの方法を用いることによってナチスに対する”外道さ”をより浮き彫りにさせたのが斬新に感じましたね🤔…

それに今作の中でも一番ゾッとするポイントとも言えるのが、強制収容所内の”惨状”を徹頭徹尾見せていないこと。描かれるとしても銃声やナチス兵士の”怒号”、そして悲鳴など、まさに直接的な視点として関心を”向けさせない”ことにより、間接的な関心という希薄した”認識”でしか惨劇を知り得ないという、いわばただ”知っている”層はあのドイツ人一家の認識と何ら変わりないという嘲笑かの如く表現で突き刺してくる狡猾さにただただ言葉を失うばかりだった。

確かに余りにも直接的に描かれなさ過ぎて、もはや何を伝えたいのかサッパリ分からないという風に感じてしまうのも無理はないのだが、それ故に”想像”の余地が含まれた描写の数々に終始集中力が切れることは無かったですし、その上従来のナチスにおけるステレオタイプなイメージ像を打ち砕いた、まさにアイデアに溢れた作品とも言えよう。

自分としてはかなり好きなタイプの映画でしたが、果たしてこれが万人にウケるのか…と言われれば話は別になってくると思うんですけどね(^_^;)それでも”芸術”の観点で見ると非常に凝った作りで視覚的にも飽きなかったですし、実際今年のアカデミー賞で国際長編映画賞を獲ったのもどこか納得ができましたね…

とにかくナチスの要素に対して実験的な視点で歴史を語りつつ、その肝心な”ユダヤ人虐殺”の関心を蚊帳の外に放った、まさに”臭いものに蓋”をするような矮小化した視点に悍ましさを感じる一本でした。

カメラワークやショットの映し方も技巧的で満足度も高めでしたし、なんと言っても音響の悍ましさはまさしく今作の中で異彩を放っているといっても過言ではないほど。BGMが排除された代わりに”悲鳴”が映画館中に充満するようなあの精巧な”不協和音”は音響賞を獲ったのも軽く頷けるレベルでしたし、あの音響を体感するためだけでも映画館で観る価値は十分にあると強く思う。

ジョナサン・グレイザー監督は『アンダー・ザ・スキン』を観たときはマジで意味不明感が強かったのだが、今作では題材が題材だけに明確化されたものがより彼の”狂気的演出”と上手く化学反応を起こした感じがして良かったし、相変わらずストーリーラインが無さすぎて反応に困るけど、新作が出たら無性に観たくなる監督なんですよね(^o^;)…公開日は5月末とのことなので是非とも公開されたらどんな作品なのかをスクリーンで刮目して欲しいですし、観る者の”関心領域”は一体どれだけあるのか、まさに”試される”映画体験でした😔...