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パスト ライブス/再会のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.9
【一言で言うと】
「”縁”は”運命”ではない」

[あらすじ]
韓国・ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後、24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいた2人は、オンラインで再会を果たすが、互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、2人はやっとめぐり合うのだが...。

とんでもなく優柔不断で”もどかしい”映画。それでいて”結論”を切り出せない過剰な歯痒さがありながらも、繊細で麗しい”別離”を描いた良作として昇華したセリーヌ・ソン監督の手腕は見事なものだったし、実際アメリカで大ヒットを記録したのも充分に頷ける映画でもあったのは間違いなかった。
しかしこれはハッキリ言って好みは別れるだろうな〜という賛否両論具合も否めないですし、個人的には好きだったけど実際あんな三角関係がずっと続いてたら確実に人間関係が破綻してますからね😅…まぁそういう意味では完全にフィクションとして割り切って観たほうが、共感という意味ではすんなりと響くんだろうなって思いましたね🤔...

とにかく繊細かつ流麗。まさに”美”という概念が純粋に析出されたショットや構成、それにA24らしい濃淡がハッキリしたフォトジェニックさが最大限活かされており、特に演出面に関しては言葉を言葉として表さず、あえて表情や仕草で登場人物の思いを汲み取らせる”抑制”のかけ方が本当に素晴らしかった。あのバーでの一連のシーンでは、アーサーの存在を徐々にフェードアウトすることによって、果たして彼にはどんな感情が芽生えているのかと想像させにくる絶妙な緊張感が終始張り詰めていましたね(・_・;)...

ただストーリーに関しては正直起伏が少なすぎるというか、”抑制”の影響がストーリーにも波及しているせいか淡々とし過ぎており、飽きはしないもののエモーショナル以上の特別な感情が湧き出なかったのが少し残念ではあった。まぁこういったラブストーリーに起伏を求めるのはナンセンスかもしれませんが(^_^;)…それでも『ビフォア・サンライズ』の”電話”をかけ合うシーンのような一発で印象に残るシーンがあっても良いんじゃないかなと観ていてそう感じました...

とにかく数十年に渡り出会える”縁”はあれど両者が共に身を捧げる”運命”とはならないもどかしさに心が疼く、”縁”と”運命”の二律背反を描きつつ上質なラブストーリーとしても仕上げたバランス感覚が見事な一本でした。

今作のテーマでもある”イニョン=縁”というスピリチュアルな要素を踏まえつつ元には戻れない”過去”の寂寥が胸に沁み入る心地良さも感じましたし、特にラストシーンにてノラが数瞬だけ”ナヨン”の面影を表すシーンが印象的かつ見事。『ラ・ラ・ランド』のようなビターな後味が残りつつも、清々しさが大部分として後を引く不思議な感覚を味わいましたね🤔...

”捨てる”ものと”得る”(”変わる”)もの。ノラは”ナヨン”と故郷を捨てた代わりに愛する夫と名声を得た。一方でヘソンは”好きだった”ナヨンを捨てて夢でもあった中国の移住を得た。まさに”取捨選択”をしてきた両者が共に再会し、そして最大の選択である愛情の”放棄”に意を決する流れは残酷でありながらも”そうなるべきだった”運命の皮肉さが際立ってましたし、しかしそれを抜きにしても再会できる”縁”というのはやはり奇跡に近いよな…とも感じた今日この頃。ただそれにしてもあの二人が再会できる”縁”よりも12年経ってもなお同じホルモン屋でチャミスルを呑み交わすヘソンら4人の方がよっぽど強い”縁”じゃねぇの?って感じました笑...