スナフ菌

聖地には蜘蛛が巣を張るのスナフ菌のレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.2
アリアッバシ最高だわ

 実在した事件を題材にした作品で、主人公の記者を演じたザーラ・アミル・エブラヒミの過去の経験から、かなりメタ的な視点でも楽しめる今作。

聖地に蔓延るのは、体を身売りする女性たち、冒頭のシーンで背徳感を感じながらも子育てのため、それに至る女性を描く。悲惨な最後を遂げる彼女を最初に見せることによって被害者たちに感情移入を覚える。

 犯人である男は自分の人生に何か意義のようなものを見出そうとしている、どこにでもいるような男で、何か大きな事をしたいという承認欲ともとれるような思想を持つ。その思想は聖地に蔓延る蜘蛛たちを殺すことによって、街を浄化するという行為に繋がる。そしてそれを半ば正当化する社会。この一連の話にはタクシードライバーを連想させられる。暴走化した狂気はある程度の大義も含んでおり、それによって一部の社会から英雄視されてしまう。
死体を自分の部屋に隠した状態で妻と行為に至る男はその死体の足先が包めたカーペットの端から見えることに気づく。狂気的にその足先を凝視して、腰を激しく振る男の姿は興奮に満ちていて、殺人を楽しんでいるように見える。

ドキュメンタリーチックに描かれる今作を締めくくるのは犯人の息子のシーンである。彼は自分の父を英雄視するものの一人であり、取材カメラの前で殺人が行われた様子を妹を被害者に見立てて模倣する。そこには正当化された狂気が新たな狂気を連鎖的に生んでしまった瞬間が描かれている。
スナフ菌

スナフ菌