あーさん

あちらにいる鬼のあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

あちらにいる鬼(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

人生を考える旅シリーズ 第1弾 

こちらは、気になっていてどうしても観たかった作品!!

地方の講演会で出会ったのをきっかけに不倫関係になって行く作家 瀬戸内晴美(後の瀬戸内寂聴)と同じく作家 井上光晴、そしてその妻 郁子の不思議な三角関係を、なんと光晴の長女でこれまた作家の井上荒野が書いた小説が原作。

井上荒野は、父親の死(1992年) 後、交流を持った際に寂聴が心から父を愛していたとわかり、また母親と寂聴も親しくなっていた事もあり、母の死(2014年)後 取材して是非彼女に読んでもらいたい、とこの小説を書いた(2019年)という。
瀬戸内寂聴の悩み相談とか説法なんかは好きで、時々YouTubeで観たりするけど、この経緯はあまり知らなくて。。

何故、それを書いたの⁉︎
どんな風に描かれているの⁉︎

最初は疑問だった事も、今作を観て、いろいろな資料を読んでわかった。
父親の不倫当時まだ幼かった荒野さん。彼女がこの物語を書く事は、(きっかけは編集者の提案だったけれど)何故か父の死後 家に出入りしている親戚のような不思議な尼 寂聴と父と母の歴史を辿る旅だったんだなと思った。
去年父を亡くしたことで、50代になって改めて親の物語を知ることになった自分の経験とも重なった。

不倫とか愛人とか、そういう類の話はあまり好きではないが、もっとそういう次元を超えた"人としての生き様"というか"それぞれの愛し方"を見せてもらった気がする。

総じて、とても好きな作品だった。

キャストが素晴らしい。
誰が一番というよりも、豊川悦司、寺島しのぶ、広末涼子のそれぞれが、役になり切ってその時間を過ごしていた、、そんな風に見えた。

勿論、トヨエツ演じる光晴(映画では白木篤郎)は、晴美(映画では長内みはる)の他にもあちこちで不適切な女性関係を結んでいて倫理的にはアウトなのだが、何故か人を惹きつけてしまう得も云われぬ魅力を持っているのだ。懐にスッと入ってくる所をトヨエツがまた的確な演技で突いて来る。ズルい!
そして、妻 郁子(映画では白木笙子)も篤郎の派手な女性関係を諦観していて、本人に問い正すでもなく仕方がなく受け入れているように見える。(とは言え、いてほしい時にいない夫に対して、言うに言われぬ苛立ちを持っている事がわかるシーンは切ない…)広末涼子は、陰のある役を演じるには華があり過ぎてどうかな?と思ったけれど、いつもの口角を上げる癖は封印、抑えた演技がとても良かった。
みはるは"一度も不倫と思ったことはない"と(身勝手ではあるものの)一途な愛を貫き、"奥さんと別れて"と言うことは決して無い。寺島しのぶの控えめながら大胆な事をしても似合う所は、みはると重なり違和感なく受け入れられた。着物の着こなし、言葉遣い、所作、全てがマッチしていた。

女達の好意を良いことに、7年もその関係が続いたある日、50代を迎えたみはるに体の変化と共に心境の変化が訪れる。
出家をしようと決意したみはる。篤郎と別れるためには、どちらかが死ななければならない。それならば、自分が生きながらにして死ぬしかない、と。自分の限界を知ったみはるの決心、それを聞いた篤郎の反応が次第に動揺に変わっていく経緯、笙子の同じ女性としての同情心、そして少しの優越感。

不倫、というと"奥さんが可哀想"と相場が決まっているが、今作に限って言うと、所々そう思わされるシーンもあったけれど、決して笙子は泣いているばかりではなかった。玄人はだしの料理上手で、小説の才もあって、篤郎と同郷で、小説家の妻の中では一番美しいと仲間内で言われていて(これは郁子さんの話)、篤郎が母のように慕う義祖母(サカ婆ちゃん)とも上手くやっていて、二人の子どもをしっかり育てていて、常に心が不安定なみはるとは違って絶大な自信があって、篤郎を深く愛していて、、絶対に彼を離さない覚悟があるのがわかった。幼い頃に母親に捨てられた篤郎、そして子を捨てたみはる。どこか心に傷がある二人。決して感情的にならず、日常を淡々と続けるもはや二人(いや、篤郎が傷つけた女達皆)の母親のような笙子。
時には笙子の良い所を篤郎がみはるに自慢する事でみはるが何とも言えない気持ちになったり、後半には笙子にもみはるにも腐されて何も言えなくなる篤郎を見ていると、共犯にも似たこの関係は一体⁉︎

しかし、51歳で光晴と別れ出家して99歳で亡くなった瀬戸内寂聴。その間、全国津々浦々の多くの人々の悩みに耳を傾けて来た。自分のして来た事を償うには、十分な長さだったのでは…。

作品内で、本当に剃髪した寺島しのぶである。みはる(=寂聴)の覚悟を実際に体験して良かった、と。髪を剃る前に二人でお風呂に入って髪を洗うシーンは、思わず泣いてしまった。切なかった。トヨエツと寺島しのぶだから、成立したと思う。

そこに人間らしい本当の姿があったから、納得できた。不倫はしていたけれど、同時に家庭も大事にしていた篤郎。
笙子もいつしか、みはると篤郎を共有するような不思議な関係になっていった。とても、説得力のある展開だった。キャストの勝利!そして、実在の人の話というリアリティ。。

現に、光晴と妻と寂聴(晴美)の三人が(妻の意志で)同じ墓地に眠っているということは、ああ、これは誰かだけが不幸せだったのではなく、色んな意味で自分がそれを望んで選んだ関係だったのかな…と思えた。

東大紛争、三島由紀夫の割腹自殺等、時折社会的な出来事を挟み込み時代の空気を演出する事で、一連の話が今作の登場人物の世代特有の価値観だという事がわかる。(今の若い人は、恐らく違和感しかないだろう。。)

今作を観た同年代の方と、語り合いたいなぁ〜
少し違うかもしれないけれど、"マディソン郡の橋"を観た時のような気持ちになった。。
個人的なことも書きたかったけれど、長くなり過ぎるのでこの辺で。

大人の作品なので、over45?50かな。そして、断っておかなければならないのは、今作では奥さんが人間ができていて強靭な精神力を持っていた為に成り立ったけれど、普通は成り立たないと思う。これは、特殊な例!
そして不倫に対して嫌悪感を持つ方は年齢に関わらず、観ない方が良いです。。(劇場は、ほぼover50どころか60な感じだったけれど、"今だったらこれ完全にアウトよねぇ…"等と苦々しげに話すおばさま方がいらした💦)



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なかなか文章がまとまらなくて、何回も何回も書き直しました!
人にちゃんと思いを伝えるレビューを書くのって難しい。。
あーさん

あーさん