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牡丹の花のOtoのレビュー・感想・評価

牡丹の花(2022年製作の映画)
3.2
線香花火を作らせてもらえずに仲違いした職人の父を、ADの立場になった娘が取材しにいく物語。SSFF映画祭にて。

【父と娘という他者】
花火職人のブランデッドムービーだとしても成立するような、シンプルな感動ストーリー。理解し難い「父という他者」と、自らも働く立場になったことで初めて、歩み寄れるようになる。
わかりやすい変化だし、突飛な設定や展開もないけれど、「なんか良いもの観たな」という気持ちにはなる。小津の時代から繰り返し描かれている「父と娘」モノだけど、1世紀近く経っても人の感情の根本は変わっていないんだなと感じたし、この作品自体もメタに「丁寧に一つものもを理解しようとする」描き方を持っていたんだなぁと思う。

【中途半端じゃいけない】
「自分と同じ苦労をさせたくない」をテーマに、娘に継がせるということをしなかった父の本心を描くクライマックス。上司の父が語った「中途半端じゃいけない」という姿勢を引き継いだことが、父の心を開かせたのだと思う。
TVや広告って対象へのリスペクトを欠いていることも多くて(ハケンアニメの「なんでも揚げる」じゃないけど…)、何かを再生産しているのか消費しているだけなのかわからなくなることは自分もよくある。クライアントへのリスペクトを持って、調べたり体験してみたり好きになろうとしてみたり、そういうことの重要性って確かに働くようになって初めてわかったかもしれない。

【職人の家族】
監督自身の境遇を反映しているのかわからないけど、実際自分も父親の仕事に憧れて追いかけようとした(上で反対もされずに諦めてしまった)という似た過去がある。
近くに偉大なプロがいるというのは、強みにもなるけど壁にもなると思っていて、だからこそ精神は受け継いだ上で、違う分野でそれを生かすというのは素晴らしい。甲本雅裕の芝居の説得力が圧倒的。

【若手の仕事】
若手社員モノ、『花束…』や『コントが始まる』などヒットも多いし、同じADだと『この街と私』とかも気になっていたけど、なんか本作を見ていると「その年齢でしか描けないもの」って絶対にあるなぁと思った。それがタイトルや結末でも表現されていて、「牡丹は起承転結の起」というスタートの映画だった。
西川美和さんが是枝さんに「20代のうちに本を書いておきなさい」と言われて初監督作品が生まれたという話をしていたけど、世界は広がっていくけれど思い通りにいかないことも多いこととか、自分が働くようになったことによる親に対する見え方の変化とか、今の状況は忘れないように残しておきたいなと思ったりした。

https://www.shortshortsonline.org/videos/japan-021-summer-ends

memo
・二十歳の監督から古き良き映画企画が出てきたギャップが面白くコンペから決定。1〜2ヶ月で脚本化。監督がキャスティング。
・撮影は3日間。あきる野市の撮影用レンタルスタジオ。助監督はスケを心配していた。
・小津などはあまり映画は観てきていない。ホラーにもチャレンジしていきたい。
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