パケ猫パケたん

ファンタスティック・プラネットのパケ猫パケたんのレビュー・感想・評価

4.5
今、観てみると、切り絵によるストップモーション・アニメーションの傑作だった。イマジネーションの乱反射。

フランスのステファン・ウルのSF小説を原作としている。

人類だけではなく、カメレオン型巨人の視点でも描かれるので、ストーリー展開が読めない点が秀逸。

フォルムと造形が素晴らしく、社会の構造、建物の様式、のっぺりした人物どもや卵型の曲線、溢れだす淫靡な雰囲気などは、フランドル絵画の巨匠、ヒエロニムス・ボスの『悦楽の園』を正に、彷彿とさせる。

更には、この映画の持つ、全体的なシュールさと、訳のわからなさと同時に、叙事詩的な巨視感、博物学的な観察性は、未知の言語とパステルカラーのイラストで書かれた、謎の奇書『ヴォイニッチ写本』を連想させる、ユニークさ。(この謎の書の、映画化なのかと夢想してしまう。)

瞑想、闘獣、綿菓子の様な食事、水晶化人間、ガス兵器など、唯一無二のイマジネーション。

映画史を遡及すれば、ジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』(1902)の純粋さと霊力、ヤン・シュバンクマイエル諸作品の無限ループの迷宮、虫プロの『千夜一夜物語』(1969)の画角一体となるエロスの混濁、キューブリック、『2001年宇宙の旅』(1968)の冷徹にして、聡明な光などを、精密に承継している。

カルト映画にして、傑作。

フランス語版の、アラン・ゴラゲールの音楽は、いかにも哀愁と情熱に溢れていて、それは、『ラストタンゴ・イン・パリ』の旋律に似ている。更に、二人のダンスを踊る足捌きから、破滅のドラマに展開する様も、映画に相似しているので、ベルトルッチ・フリークの自分としては、前年に作られた『ラストタンゴ・イン・パリ』のSF的な変奏曲として楽しめた。

『風の谷のナウシカ』(1984)の巨神兵、『アバター』(2009)、『進撃の巨人』、最近の映画では『JUNK HEAD』(2017)など、後進の作品にさまざまな影響を与えている、そして、与え続けるのであろう。