ギルド

エゴイストのギルドのレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
4.2
【エゴと情愛と献身の境は何か?】
■あらすじ
14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。
今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。

自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。

惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。
亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。

■みどころ
東京国際映画祭で話題になったもののタイミング的に合わなくて観れなかった作品。
内容的には今泉力哉「his」のようなLGBTQに擬似家族を足し合わせた作品と毛色は近く、話の骨格だけみればhisっぽさを感じる作品でした。
(なんなら龍太役の宮沢氷魚さん繋がりで同じ作品に出てるし)

思春期の嫌な思い出から逃げるように東京で働きだした浩輔。
筋トレ目的でパーソナルジムに通いパーソナルトレーナーの龍太と出会う。初めはお客☓トレーナーの関係性だったがお金がない事・真面目である事・母子家庭で育った事をきっかけに浩輔は龍太へ献身的になる。
そこから関係性は一気に深まり、時にはぶつかり合うものの浩輔の献身的に支える形で再び龍太と良好な関係になっていく。
やがて龍太の母親へも同じように献身的に接し、このまま幸せな関係が続いていくと思いきや…?

本作は同性愛映画の皮を被った家族愛・「この人の事を守ってあげたい」という作品である。
その根底にあるものは"献身的である"事へのエゴ、情愛、保護者的眼差し…といった多面的な存在であり、それが浩輔⇔龍太・龍太母との関係性が変わるにつれて"献身的である"事への客観的評価も変わる事が本作の白眉であると感じました。
本作の中で浩輔は早くから母親を亡くした過去を持ち、それ故に多大な自己犠牲を伴う形で龍太・龍太母への支援を行っていく。
本作の冒頭モノローグにて服を鎧と見立てる話があるように、浩輔は母を亡くした事・ゲイである事を隠さないといけない事への反芻・鬱屈から護るようにハイブランドの服で身を纏っている。
それは過去のトラウマへの防衛だけでなく、「自分に出来なかった事をこの人に捧げたい、守ってあげたい」という半ば狂信的な想いでの支援にまで発展していくのだ。
観る人からは献身的である良きこととも捉えられ、その一方では自己満足のエゴであるとも捉えられる。
では実際に浩輔の支援に対して自己満足であるか情愛と捉えるか?その支援で得た感謝は一時のか長持ちするか?に対して龍太や龍太母とのやり取りで見えていく。

映画のタイトルではエゴイスト(=エゴな人間)という名前で謳われているが、その真っすぐで一方向のコミュニケーションが続く事への良きこと・裏目に出る両面を捉えつつも、受け取り手の受け取り方によってはエゴから情愛・家族愛に発展していくという希望も見据えていて良かったです。
何かを与え続けた側の人間も自分を守る鎧が徐々に解かれていく姿、現実主義者の一面に少しばかりの余裕を見せる所に本作の温かさを垣間見える作りで考えさせられる映画でした。

万人にオススメできる映画かは分からないけど、予告編を観て気になる人は鑑賞することをオススメします。
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