紫のみなと

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けの紫のみなとのレビュー・感想・評価

4.3
今となってはあまりに有名なハーベイ・ワインスタインの性暴力事件。
ですがまず本作を見終わって強く残った感情のひとつは、ニューヨークタイムズ紙の記者ミーガンを演じるキャリー・マリガンと、過去ハーベイのアシスタントだったゼルダを演じるサマンサ・モートン2人の演技力への感嘆!
ふたりともかつてはスイートでコケティッシュな魅力の若い女優さんだったのが、中堅女優のいま本当に彼女達の演技が凄い。
勿論、ミーガンの相棒ジョディ演じるゾーイ・サガン含め出演者皆すごく良かったけど(ジョディの小さな娘ちゃんの演技まで!)
本当に職人技というか、演技という技から目が離せない。
そのとき彼女らが何を感じたのか、どんな想いで何を伝えようとしているのか、思考の移り変わりまで、じかに肌に訴えてくる迫力に、久しぶりに映画を観ていて興奮を覚えました。

仕事は適材適所だと思うけど、いったいどれだけの人がミーガンとジョディのような仕事が出来ているでしょう。
ミーガンとジョディは心底自分の仕事が好きで、自分の特性に合った仕事に就いている。
ミーガンには乳飲子が、ジョディも小さな娘が2人もいるのに、もしかしたら自分や家族にも危害を加えられるかも知れない状況の中でも全く果敢。
特に、赤ちゃんを産んだばかりのミーガンはふつうなら母性に埋没したり、防衛本能が研ぎ澄まされたりするだろうに、むしろミーガンは仕事が必要なタイプで、どちらにも全力を注ぐことで、生きることの幸福を得ていく。
ジョディもそうで、例え休日の電話対応でも、例え急に飛行機に乗ることになっても、子供の事は気になるだろうけど、自分の役割が分かっているから瞬時に切り替えて対応できる。
2人とも、旦那さんが素晴らしいから仕事に打ち込めるのもありますが。

性加害の被害者から話を聞き出すという、辛く、もっとも難しい仕事を成功させたのは、2人が仕事に対して、相手に対して真摯だったからで、うっかり陥ってしまいやすい同情や、ただの傾聴にとどまらない態度が相手の心を動かしたんだと思います。事実を追うこと、事実を聞き出すこと、事実を公開することをやり遂げた2人は真のプロフェッショナルだなと、そんな姿を見ているだけで自分も頑張らないとと思う。

それにしてもハーベイ・ワインスタインの気持ち悪さが凄い。廊下のショットが延々続く中で交わされるハーベイと被害者の会話、「何もしないから」「少しでいいから」とかって、変な言い方ですが、本当にこんなセリフ言うんだ!と思ったし、新聞社との電話で交わされた会話の中で、グィネス・パルトロウのことを連発するのも、本当にこの人大物プロデューサーなのかと信じられないほど愚かしいし、アシュレイ・ジャドの諸々に至っては全く知らなかったので、アシュレイだけの話ではないけど、かつてスクリーンで観たアシュレイの美しい姿を思い出すにつけ、1人の人間の人生をこんなふうに歪め陥れたワインスタインは、いま、何を思っているのでしょうか。