紫のみなと

それでも私は生きていくの紫のみなとのレビュー・感想・評価

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)
3.9
なかなか良かったです。

主人公サンドラをレア・セドゥが等身大に演じている。
サンドラの父親は、神経難病の進行のため自宅での生活が限界となり、入所できる施設を探さないといけない状況。
とりまく家族は元妻、現在の恋人、娘たち。
元哲学の教師で、尊敬する父親が変わっていく姿をみるのが辛いサンドラ。
父親は次第に娘も分からなくなっていく。
サンドラはひたすら面会に行き、父親との時間を過ごす。
父親のメモを見つけて読むシーン、サンドラが一生懸命お父さんの幻影を追いかけている姿。
そんな、父親の病を受け入れながら、愛し続ける娘の父親との時間が映画の大半なのですが、ものすごく悲しくて、とてもいい。こうやって、父親と生きていくしかない。選びようのない切なさ。

一方で、死んだ夫の友人で妻子ある男と不倫の恋にはまっていくサンドラ。
男の、なんというか時々垣間見る卑劣さと卑屈さがリアル。
女盛りのレアの魅力によって、不倫でもなんでもいい、いま、この時が必要なんだという熱情がフランス映画らしく表現されている。

娘ちゃんの成長痛や、クリスマスのシーンなどもさり気なく、うまい演出だなと。

ラスト、施設のレクリエーションで「サン・ジャンの私の恋人」が流れるシーン、この郷愁にまみれたメロディと歌声によって、2度と帰ってこないものを噛み締めるサンドラの胸中に、唐突に溢れたであろう哀しみがこちらにも伝わってきて一緒に涙が込み上げてきました。人生は本当に、多くのものを失っていきます。

不倫相手がメルビル・プポーだったことに見終わってキャスト見て知り、のけぞりました。まあ、言って彼のことは全然知らないから気づかなかくて当然なんですけど…全くもって年月は流れます。